13人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
「いいじゃないの、あたしが旅行したってさ…。」
鳥澤は図々しく私の隣の席に座る。
「三神だって、珍しいじゃん。なぜ、こんなツアーに参加したんだい?」
それは…、
「マンションの近くに小さな旅行代理店があるのよ。一月くらい前から、このツアーのポスターが貼られていたの。大学は夏休みだし、たまにはいいかなと思って。」
毎日、前を通るたびに目にしていたポスター。
そこにはこんな文句がうたわれていた。
『暑い夏を静かな避暑地で過ごしませんか?』
『女性限定だから安心です!』
『外国気分を味わえる、雰囲気のある洋館で夢の一時を過ごしましょう。』
…いったい、私はこれのどこに惹かれたのか。
まあ、都会にいるよりも涼しいだろう、くらいの気持ちだった。
「ふうん。あたしは安さに引かれて来たんだけどね。」
鳥澤はミニスカートから出した長い脚を組むと、急にあくびをした。
「しかし遠いねぇ…雨も降りそうだし。」
言われてみれば、さっきよりも雲が出てきている。
私は窓に肘をつくと、旅行会社からもらった、小さな地図を広げた。
今、どのあたりなんだろうか?
最初のコメントを投稿しよう!