第13話 チアガール

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             その日は、晩秋とはいえ、小春日和の陽射しがまぶしく暖かだった。  晶子や朋美にとって、イザベラの転入は寝耳に水だった。しかも、教室の黒板に書かれた名前が「竹村イザベラ」とあったことも驚きだった。  伊藤直美先生がイザベラに与えた席は廊下側の一番後ろで、窓際で一番後ろの晶子とは正反対の位置だった。そこの席は、晶子が転入した時からずっと空席だったところでもあった。そして、イザベラの前には学級委員の伊藤良平がいた。  昼休みに晶子と朋美がお弁当を持って屋上に行くとイザベラもついて来た。 「ホルスタイン王国に帰ったと思ってたのに、突然、転校生で現れるから驚いたわ」  晶子が自分で作ったお弁当の卵焼きをほおばりながら言った。 「ごめんなさいね、わたしどうしても晶子や朋美と一緒に日本の高校生活を送ってみたくって。それで母にお願いしたら許してくれたので、いま竹虎のお店に居候していますの。大使館よりあそこの方が日本的でしょう」 「そうだったの、ところでイザベラはお弁当ないの?」  朋美が君絵作の豪華なステーキ弁当を開きながら、イザベラの方を見て言った。 「わたし、ランチは学校の食堂で食べるつもりでしたので、竹虎にお弁当を頼まなかったの。晶子たちはいつもお弁当をここで食べていますの?」  そう言いながら、イザベラは手を伸ばして晶子の卵焼きを一つ摘まんで口に入れた。 「オイッシイ。これは何という食べ物でありますか?」 「卵焼きよ。わたしが作ったの。これは金ぴらごぼうで、オカミサンが昨日の夕食に作った残り物。一晩置くと味が良い具合に沁みてるの」  晶子はそう言って、金ぴらごぼうを箸で摘まんで、イザベラの口に放り込んだ。 「うん、これも美味しい。金ぴらごぼうと卵焼きね。竹虎に作ってもらいますわ」 「わたしのステーキ弁当も食べてみたら?このお肉は松坂牛のヒレよ」  三人が二つのお弁当を分けて食べていると、伊藤良平を先頭に数人の生徒がやってきた。 「おっ、いたいた。こんなところでお弁当を食べてるのか」 「なんなの、あなたたち?良平さんが連れてきたの?」 「朋美さん、そうじゃないんだ。ここにいるみんなはさっきうちのクラスに押しかけてきたので、俺がしかたなく一緒に君たちのことを探してたんだ」
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