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「そうじゃないって、結局あなたが連れてきたんじゃない。それで、用件は何なの?」
「俺も含めて、みんなはイザベラさんに部活の勧誘に来たんだよ」
良平に促されて、ほかの生徒たちが屋上のフェンス際のブロックに座っている朋美たち三人に会釈した。
「部活の勧誘?ああ、気が付かなかった。イザベラは転校生だからね。イザベラ、この学校の生徒はね、全員なにかしらの部活をやることが義務付けられているのよ。だから、イザベラも何かの部活を始めなければいけないの」
朋美がそう言うと、イザベラが立ちあがって良平やほかの生徒たちにペコリと頭を下げた。
「皆さん、ありがとう。でも、わたしは、朋美や晶子と同じように、剣道をやりたいと思っていますの」
ほかの生徒はイザベラの言葉に残念そうな顔をしたが、良平は引き下がらなかった。
「イザベラさん、そんな短絡的に決めてはだめだよ。まずはどんな部活があるのかを知ることが大事だよ。そして、それぞれの部活の良いところや悪いところを知ってから、どの部活にするかを決めても遅くないよ。まあ、そんなわけで俺たちの話を一人二分ずつということで聞いてみてよ」
押しの強い良平の説得にイザベラは抗しきれず、皆の話を聞くことにした。
結局、イザベラはとりあえず野球部のマネージャーをやることになった。これには野球部の良平の再三にわたる勧誘努力が功を奏した。クラスの席が前後と、近接していることも良平に幸いした。
部活の日に、イザベラは初めて体育館脇にある野球部の部室を訪れた。部室にはすでに約三十名の野球部員が集まっていた。
秋葉高校の野球部は十年の歴史を持っていた。部員たちは毎年猛練習をして甲子園を目指す意気込みは強いものの、春の選抜代表が確定する秋季都大会や夏の選手権大会出場が決まる東東京大会の序盤で敗退するのが常だった。
二年生で新チームのキャプテンになった三塁手の川添信吾は部員の技能ではなくマネジメントに問題があると考えていた。そのため、川添キャプテンのイザベラへの期待は大きかった。
「諸君、今日の部会は我々、新チームの今後の抱負について新マネージャを交えて話し合いたいと思います。それでは、みんなに紹介します。野球部新マネージャーの竹村イザベラさんです」
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