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「……なるほど」
しかしそれを聞くと勝者としては罪悪感を感じる。ほんとに勝ってよかったのかな……。
「……夏文先輩のことならもう気にしないほうがいいと思う。クイズは勝者と敗者でわかれるんだから、いちいち気にしてたら上に行けないよ。私たちが目指す道は簡単じゃない。何千人もの参加者が目指してるんだから。それに夏文先輩は大会には出れないけど、これからも部室では会うんだから、君が気にしてると気まずくなっちゃうよ」
「それは……そうなんだけどさ。でもやっぱり俺は、罪悪感を感じ続けると思う。勝ち進むためには、背負っていかなくちゃならないことだから」
「勝者の責務ってやつ?」
「そんなかっこいいもんじゃねぇよ。……多分、甘いだけだ。だから捨てきれないんだと思う」
そう言うと鬼龍院は突然立ち止まった。合わせて俺も歩みを止める。
「どうした? 鬼龍院」
「もう歩けないからおぶってくれない?」
「……は? いつも登ってる坂じゃん」
またわけのわからんことを……。
「ほら、早くしゃがんで」
鬼龍院は俺に接近すると、両肩に手を置く。
「汗かいてるんだけど……」
「しゃがんで」
……俺は渋々膝を折ってしゃがんでやる。するとすぐに重なってきた。鬼龍院の両足を持って、俺は立ち上がる。もともと細身なせいか、体重はとても軽かった。
こうやって無理に逆らわないところが甘いんだろうな。
鬼龍院を背負ったまま、残りの坂を登り始める。
「甘いんじゃなくて優しいんだよ。君は」
俺の背にいる鬼龍院が、耳元で囁いてきた。
「あのさ、言いたい事があるんだけどいいかな?」
「なに?」
「……色々ありがとな。頑張るきっかけをくれたことや今日の対決のこと」
……ほんとは違うことを言おうとしたが、踏みとどまった。この思いはもう少し心にしまっておくとしよう。
意外にも赤面してしまった鬼龍院と夕日を背に、俺は坂を登り続けた。
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