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「わかっただろ。俺はもう頑張ることをやめたんだ。どうせ頑張ったって無駄になるだけだ」 そう言うと、ずっと黙って俺の話を聞いていた鬼龍院が口を開いた。 「それは魚崎君が逃げただけじゃないのかい」 「……逃げた?」 「うん。さっき傷跡をじっくり拝見させてもらったけど、選手生命が断たれるほどの傷ではないよね。昨年に引退したのなら、リハビリを続ければ高校でもやっていけるはずだよ。でもそうしないのは君が頑張ることから逃げているからでしょ」  だから興味津々で見ていたのか。 確かに、医師からはそう言われた。でも……何度努力したって……。 「言わせてもらうが君みたいな境遇に陥(おちい)った人間なんてこの世には掃いて捨てるほどいる」 「……言ってくれるな。ま、努力を信じているおまえにはわからないだろうだがな」  俺は椅子ごと鬼龍院に背を向けて再び本を開く。 「今度は私から逃げたね」 「……」  鬼龍院は追い打ちをかけて来る。もう帰ろうかと思ったとき……。  とすっ。  突然白と黒のニーソを履いた二本の長くて細い足が俺の両肩に置かれる。  へ? 足ってことは……。  ガシッ!  こいつ俺のすぐ後ろで机に乗ってやがる! ていうか頭を手で押さえるな! 「あのぉ、鬼龍院さん?」 「今から魚崎くんに罰を与える」 「ば……罰って……ぐえぇ!?」 足で首を絞めてきやがった!? 首四の字の形だった。 「こ……小癪(こしゃく)なプロレス技を」  俺は鬼龍院の足を首から引きはがそうとしたが(女の子の足に触るのは普通なら気が引けるのだが今はそんなことは言ってられない)、妙に力があってなかなか外れない。  まずい……。このままじゃ落ち……。
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