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「ぷはぁっ」  鬼龍院が足の力をギリギリのところで弱めたおかげか何とか助かった。か……加減をしろ。  俺はようやく息をすることができたが鬼龍院の足はまだ俺の首に絡めてあった。  いつでも絞められるってわけか。 「……今度は私の過去の話をしてあげるよ。君と似ているところがあるから、思うところもあるかもしれない。少しでも君のひねくれ具合が治ってくれたら幸いだね」  鬼龍院に背を向けた状態なのでどういう表情をしているかはわからなかったが、今までの強気な口調より少しだけしんみりした感じになった。  ずっと密着しているせいか、鬼龍院から甘いにおいが漂ってくる。 「か……過去の話?」  俺は少し赤面しながら言う。 「うん、そう。私は中学生の頃、陸上部でハイジャン……つまり走り高跳びをやっていたの。助走をつけて、飛び越えるバーの高さを競う競技だね。自分で言うのと君の前で言うのはちょっと気が引けるけど、周囲からは天才と呼ばれていたよ。ああ、顔の表情を変えないで」  鬼龍院は俺の顔を覗きながら言う。今までうっすらと笑っていた顔が次第に悲しみの表情に変わっていく。 「でももてはやされていたのは最初だけ……。顧問の先生や大会関係者からの期待はプレッシャーに、部員からは妬まれ始めたんだ。私だって最初から天才だったわけじゃない。ただ誰よりも高く飛びたかったから努力したの。幼い頃は鳥になるのが夢だったからね。……ちょっとちょっと、笑わないでよ。君のために話しているんじゃない」  俺が、悪い悪いと言うと、鬼龍院は顔をあげて再び視界から消えて言葉を続ける。 「次第に私は周りとのコミュニケーションをまったく取らなくなって、練習に明け暮れるようになってしまったの。けどもっと悪くなるのはここから先だね。中学三年の夏、ちょうど君が挫折したのと同じ時期かな。私は、本物の天才を見たのと、選手生命を絶たれる怪我を負ったんだ。私の自己ベストの記録を対戦相手は簡単に飛び越えてしまったのよ。もちろん私も飛んだんだけど、今までの過度な練習がたたって片足の筋肉がズタズタになってしまった」  鬼龍院は俺の首の拘束を解くと、スルスルと左足のニーソックスを脱いでいく。
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