1

9/10

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
 俺は鬼龍院の白い足が見えるにつれてドキドキしたが、そこにある手術の跡を見ると驚いた。傷跡はふくらはぎだけではなく膝の方にまで及んでいる。 「筋肉のみならず骨もダメみたい。まだ中学生で体もできていないのに激しい練習をしたせいでね。ほんとは怪我をする前から足に違和感を感じていたのだけど、私はもっと高くまで飛びたかったから無視して練習を続けたよ。そしたらこのざま。今ではリハビリのおかげか軽く走るくらいまではできるようになったけど、でも飛ぶとなると話は別らしい」  鬼龍院はニーソックスを履きなおすと再び俺の肩に足を乗せる。 「……そんなにつらいことがあったのに、絶望しなかったのか? 努力が無駄になったって思わなかったのか?」  確かに、俺と鬼龍院の過去の話は似ている。けど、だからこそ俺と同じ考えになるはずなのに……なぜ、すっぱりと腐らずに道を変えられる? 「もちろんショックではあったよ。けどね……私は何よりも努力を認めてほしかった。私を妬んだチームメイトに。私は天才なんかじゃない。努力したからここまでこれたんだってね」 「今でも……ハイジャンができなくなった今でも、努力をあきらめないのか?」 「あきらめたら、そこで試合終了だよ」  鬼龍院は有名なマンガのセリフを言うと、ようやく俺から離れ、机から降りる。 「正真正銘の努力家……いや、努力バカなんだな」  俺がそう言うと……『負けず嫌いなだけかもしれないね』と、屈託のない笑顔を返して来た。    鬼龍院の笑顔はつらい過去をまったく感じさせないほどの可愛さだった。 「も……もう一ついいか? なんで新しい努力をする場として高校生クイズを選んだんだ? 他にもやれることはなかったのか?」
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加