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「こんにちは、魚崎君。あれ? どうしたの、その顔は。夏文先輩に嫉妬しているのかな? だとしたらやめといたほうがいいよ。友人として言わせてもらうけど君の顔じゃどうやっても彼には勝てないと思う。もはや運命なんだよ。その顔で生まれてきたことを一生恥じたほうがいいんじゃない?」
「……出会いがしらでいきなりそれかよ。絶対友人にかける言葉じゃないだろ」
鬼龍院万里の登場だった。
黒く艶のある長い黒髪。マユゼンのためかより見やすい真夜中の猫のような丸くて鋭い目。顔だちも整っているため相変わらずの美人だった。今日はメガネはつけていないようだな。あっちの方がかわいく見えるような気がするのだが……。
あれ? でもおかしいぞ。学校の外でも中でも灼熱地獄なのに不自然なことがあった。
「おまえこんな日でもニーソ履いているのにどうしてそんなに汗をかいていないんだ?」
鬼龍院の左足には中学時代、陸上をやっていた頃にできた大きな傷跡がある。それを隠すためにニーソを履いているそうだが、鬼龍院は全くと言っていいほど汗をかいていなかった。
俺が尋ねると鬼龍院は部室の隣の空き教室を指で指した。
「隣でクーラーをつけていたからね」
……盲点だった。ああクソッ! なんで気付かなかったんだ? ダラダラ汗を流して部室が開くのを待っていたというのに!
「あれ? もしかしてこんな暑い中ずっと待ってたの?」
鬼龍院は顔をニヤニヤさせながら言う。明らかに人を小ばかにした顔だ。暑さのせいもあってだんだんイライラしてきた。
すると突然、ガラガラと音を立てて部室の扉が開き、中から二人の男女が出てきた。女子生徒の方は知らなかったが男子の方はやっぱりというか案の定、夏文先輩だった。
「今日は暑い中わざわざ学校に来てくれてありがとうね」
「気にすんなよ。ついでに部活の用事も済ませられるし一石二鳥だ」
部活はついでなのかよ……。
「じゃあな。気を付けて帰れよ」
そう言いながら女生徒を見送ると、夏文先輩は俺たちの方に顔を向ける。
「あれ? おまえらいたんだ」
「先輩!」
「ははは。冗談冗談。ほら部室入れよ」
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