第1話

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プロローグ  超が付くほどバカな高校である我が海鈴学園には、日本で一番高い山が言えない奴らがちらほらといる。 俺もこの学校に通ってる以上褒められるほどできた頭脳を持っているわけではないが、愛すべき日本に住んでいるのだから『富士山』の名前ぐらいは普通に出るだろう。これが世界になるとやや難しくなるが、この春から高校生になった身だ。ここはやはり一般常識として『エベレスト』と答えなくてはならない。  しかし富士山を答えられんかった連中は、スポーツ推薦でノー勉で入学したスポーツの天才ばかりだから仕方がないといえば仕方がないのかもしれない。スポーツを真剣にやっていれば学がなくても将来的に役立つわけだし。俺のように勉強もスポーツもたいしてできない人間は、来る日も来る日も最悪な結果を回避するために生きていくだけだ。  入学してから約三週間が経ち、ようやくできた友人たちと昼休みにいつものバカ丸出しな、それでも楽しい話をしていたとき、突然そいつは現れた。 「じゃあ稼いで一番高い山はなんだと思う?」  両足にそれぞれ色の違うニーソックスを履き、艶のある長い黒髪のメガネ少女がいきなり会話に入ってきた。海鈴学園の制服と一年生を表すバッチを付けたそいつは黒と白のニーソックス以外は模範通りの服装をしていた。うっすらと笑みを浮かべながら赤いフレームのメガネをはずす。  稼いで? 意味が分からん。 「なんだコイツは?」  つい口から言葉が漏れてしまった。するとニーソ女が俺のほうに向かってきた。チャンスと言わんばかりに関わりたくなかった連中が次々と去っていく。  待て! 俺を見捨てるな! それよりもなぜおまえはこっちに来る!?  ニーソ女は俺の目の前に来ると、身長差があるためか見上げる体勢になる。結構小柄だ。身長は俺より十センチほど低そうだから百六十ぐらいか。ニーソ女は精一杯背伸びをしながら顔を俺に近づけてくる。
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