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 パニックになりそうだった俺は鬼龍院がはっきりとよく通る声でそう言ったのが聞こえた。 「休憩だと? 対決中にか? そんなもの認められるわけないだろう」  アルマ先輩は強気の口調で答えたが鬼龍院は引き下がらなかった。 「魚崎くんは初心者です。私よりも遅く始めたんです。ハンデすらないのですからこのぐらいはあってもいいでしょう?」 「しかし……」 「いいんじゃないか? 少しぐらいとってやれよ」  アルマ先輩の反論を遮って夏文先輩が会話に入ってきた。ちょっと意外だった。 「夏文……いいのか?」 「鬼龍院の言うとおり、魚崎は初心者だ。それに心配しなくても、ちょっと休憩をとらせたくらいじゃオレは負けねぇよ」 「べ……別に心配などしていない!」  顔を赤く染めながらアルマ先輩は、俺と鬼龍院の方向を向く。普段は無表情が多いせいか、その顔に俺は少しドキッとした。 「……わかった、五分やる。それでいいか?」 「わかりました。ありがとうございます、先輩。ではちょっとコレを借ります」  鬼龍院は俺の手をつかむと強引に引っ張った。ていうかさりげなく物扱いされた!? 「ちょっとぉ!?」  鬼龍院の手に引っ張られて部室から出ると、集まる前まで鬼龍院が使っていた、隣の空き教室に連れ込まれる。  教室の様子は部室とあまり変わりなかった。鬼龍院が一時間ほど前までクーラーを付けていたせいかまだ冷気が教室に残っていた。 「危なかったね。パニックになりかかってたでしょ? 私が休憩をもらってなかったら負けてたよ。ただでさえ夏文先輩に勝てる可能性はゼロに近いのに」  俺の目の前にいた鬼龍院はさらに接近して、初めて会った時のように背伸びして顔を俺に近づける。 「悪い、助かったよ。まさかハチ公の問題が出るとは思っていなかったから」 「油断しすぎだよ。ミスをしても絶対にパニックになっちゃダメだからね」 「ああ、わかってるよ」  とはいえ夏文先輩はもうリーチだ。俺が勝つには二問連続で正解するしかない。ダメだ。緊張していてなかなか落ち着かない。
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