4人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
「わかってないね。追い込まれてるから緊張してるでしょ」
……どうやら鬼龍院にはお見通しのようだった。鬼龍院は俺の目を見ながら言葉を続ける。
「……人によるかもしれないけど落ち着くいい方法があるよ」
ぎゅっ。
言った瞬間、鬼龍院がいきなり抱き……ついてきた!?
手を俺の背中に回し、お互いの身体が密着する。鬼龍院の長い黒髪からはほのかに甘い香りが漂ってくる。
「き、きき鬼龍院!?」
「静かにして。私に合わせてゆっくり深呼吸してみて」
言われるがまま、鬼龍院が深呼吸をするのに合わせて俺も始める。多分こんなところをアルマ先輩に見られたら間違いなく制裁を喰らうことだろう。
すると俺たち二人の呼吸音に混じってお互いの心音が聴こえてきた。鬼龍院の心音はゆっくりなのに対し俺のはかなり早かった。
「やっぱりすごい緊張してる」
「……鬼龍院が抱きつくからだろ」
「抱きついてるわけじゃないよ。心音を確認しているの。ちなみに確認したときからこうだったよ」
そして俺の心音はゆっくりになりやがて正常の速度に戻った。さっきまでしてた緊張はうそみたいにほとんど取れていた。
「すごい……。なんでだ?」
俺は鬼龍院に聞いてみた。俺から離れるといつものように薄く笑みを浮かべながら口を開く。
「よくテストのときに、答えをど忘れすることってないかな?」
「あるな。で結局思い出せずに赤点をとる」
「そういうときはリズムを刻むと思い出しやすいよ。ど忘れは緊張のせいだからね。さっきの深呼吸と心音合わせはそのため。これで緊張がほぐれる。でもテスト中にあんなことするわけにはいかないから、そのときは貧乏揺(びんぼうゆ)すりかペン回しも効果的だよ。もちろん個人差はあるしやりすぎると迷惑だから適度にね」
「なるほどね。おかげでほとんど緊張が解けたよ」
「ん、ほとんど? 全部解けなかった?」
深い意味はなかったが鬼龍院は食いついてきた。
「ちょっぴりね。でもさっきよりは……」
「それでいいよ」
「……え?」
最初のコメントを投稿しよう!