エピローグ

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エピローグ  午後の五時。  俺は、日が落ちてだんだん下がっていく温度を肌で感じながら、夕日を背に帰宅路の長い坂を鬼龍院と一緒に登っていた。  最近知ったのだが俺と鬼龍院は同じ町の出身だった。ということは中学校も一緒だったのかもしれない。俺の過去も全部知ったうえで知らないふりをして、あのときの図書室で俺を励ましてくれたのか。……あくまで俺の勝手な推論だ。あえて何も聞かないし何も知ろうとはしなかった。  俺は思考を切り替え、夏文先輩のことを思い出す。あの後、冷静になった先輩は俺を応援してくれたけど、早押しクイズの後の、先輩の涙が気になった。 「なぁ鬼龍院。夏文先輩が泣いてた理由ってやっぱり負けたからなのかな?」  俺の少し後ろを歩いている鬼龍院に尋ねてみた。すると鬼龍院は前にきて、さっきまで食べていたアイス(俺がおごった)の棒を俺の口に……突っ込んできた!? 「な……何を!?」  間接キス!? こいつには羞恥心が無いのか!?  あわてて俺はアイスの棒を口から引き抜く。……あたりだった。 「夏文先輩が泣いてたのは、多分それだけじゃないと思う」  赤面する俺をよそに鬼龍院は質問に答える。 「ほ……他にもあるのか?」 いきなりのことにまだ言葉が詰まっていた。 「うん。高校生クイズの番組を見て思うんだけど、よく途中で負けて泣いてしまうチームがあるでしょ? あれはクイズに負けたのが悔しくて泣いてるだけじゃない。その先まで、みんなと一緒に行けないのが悔しく、さびしいんだと思う。クイズに負けて高校生が流す涙はその世界から途中で切り離されてしまう辛さの涙なんじゃないかな? 夏文先輩のときも同じだと思うよ」  鬼龍院は淡々としゃべった。俺は素直に含蓄(がんちく)のある話だと思った。
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