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「鬼龍院は何か部活をやっているのか?」
会話をしながら、俺はぱらぱらと本をめくって火星で一番高い山の名前が載っていそうなページを探していく。すると『火星の地表と山』という項目を見つける。これなら絶対載っているだろう。
「ああ、火星で一番高い山はオリンポス山と言うそうだね」
ぐはっ。こいつ答えを先に言いやがった。まるで推理小説の犯人を先に他人に言われた気分だ。
「ちなみにオリンポス山の標高は約二万五千メートルで、世界で一番高いといわれるエベレストのおよそ三倍らしいよ――って、ちょっと待って。怒らないでよ。君のために教えてあげたんじゃない。」
鬼龍院はまた悪びれもせずにそう言う。そういえばクラスメイトの誰かが
『鬼龍院は自分の知識を他人に自慢する変人』だって言ってたな。ほんとに一風変わってるよ。
「……素直にさっきの質問に答えることにするね。私は先日、クイズ研究
部……縮めてQ部(きゅーぶ)に入部したよ。いや、正確にはまだ仮入部だね。正式に入部するつもりではあるのだけど……」
「クイズ研究部? 部として認められているってことか。なるほどね。それだけ頭がよければ納得だ」
何度か高校生クイズの番組を見たことがある。三人一組でやる競技だ。あれは確かに頭が良くないと挑めないな。
「それは違うよ魚崎君。オリンポス山のことやQ部に所属しているだけで決めつけないでほしいな。この学園にいる以上、私も頭の出来は良いほうではないよ。特に英語はてんでダメだね。私には呪文にしか聞こえない」
「そうなのか? クイズやるなら致命的じゃないか」
ふと、彼女のほうへと視線を向ける。
「いや、そうでもないよ。勘違いしているようだから指摘させてもらうけど、クイズに必要なのは必ずしも頭脳だけではないんだよ。知力、体力、チームワーク、そして忘れてならない時の運。これらすべてあって初めてクイズで戦え
るの」
鬼龍院は目を輝かせながら俺に語ってきた。まるで夢を語る子供のような、希望に満ち溢れた目だ。嫌いな目だ。けど……少し前まで、俺もこんな目をしていた。
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