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「……やる気は十分にあるみたいだが、そんな簡単な話じゃないんだろう」
俺は鬼龍院から目そむけ、再び本へと視線を下す。
「そうだね、当然努力が必要だね。でもとてもやりがいの……」
「あっても意味ないよ」
俺は鬼龍院の言葉を遮った。
「ん?」
言葉を止めた鬼龍院は猫みたいな目で俺を見つめた。本を閉じながら俺は続ける。
「おまえがどこまでのレベルを目指しているかは知らないけど努力なんてものは最終的には無駄にしかならないんだよ。それとも鬼龍院は、努力はいつか必ず報われると思っているタチなのか? だとしたらもっと現実をみるべきだ」
「君はスポーツ漫画によく出てくる才能(さいのう)云々(うんぬん)言ってるひねくれたキャラクターなの?」
「そうかもしれない。けどそのひねくれたキャラクターがすべて間違っているとは俺は思はない」
さすがにこれ以上は黙った方がいいか? いや、いっそのこと全部言ってしまおう。こいつとはまだ友達になったわけではないのだし。
図書室を見渡してみると、もう人は残っていなかった。完全下校時間が迫ってきたので全員帰ったのだろう。でもまだ時間は三十分ぐらい残っているし、二人しか残っていないなら周りを気にせずに話せる。
「なぜ努力を否定するの? そこまで言うほど、君は努力をしてきたのかな」
「俺は……努力に限界を感じたんだ。勉強でも、スポーツでも、真面目に時間
さえかければ少しぐらいは上達できる。けど、そっから先に進めるのは、ほんの一握りの天才だけなんだよ。努力して成功する奴なんて最初から天才なんだ!」
鬼龍院に対して俺は怒鳴った。みっともないという自覚はあったが、気持ちが高ぶって止まらなかった。
俺はいつの間にか鬼龍院を見下ろしていた。そこで初めて自分が感情に任せて椅子から立ち上がっていることに気付く。
「努力に限界ね……。まずは座ろう。そして話してみてよ。君がそんな風(ふう)に考えるようになった理由をね」
鬼龍院は最初こそ驚いた顔をしていたが、すぐさま薄く笑みを浮かべ、俺にそう言った。童顔(どうがん)ではあるが、その落ち着き方は完全に大人(おとな)だった。
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