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 俺は迷った。まだ二回しか会っていない相手にしゃべるべきなのか? しかし、変人とはいえ女の子に怒鳴ってしまった罪悪感は感じなくもない。 「……わかったよ」 いろいろ考えた末、しゃべることにした。中学時代の話だ。このことを知っている同じ中学の奴は、何人かこの学園に一緒に入学しているのでいずれはわかることだと思ったからだ。なら、隠しておく話でもないだろう。 「……俺は、小さい頃から卓球をやっていたんだ。最初は全然勝てなかったけど練習だけは欠かさなかった。そして小学校五年生ぐらいのときに、接戦ではあったけど地域の大会で優勝した。小さい大会だから大したことじゃないけど、すごくうれしかった。それからだ。卓球にのめりこんだのは。精一杯練習して……小学校時代はほぼ無敗だった。勝利一つ一つが自信にもつながっていった。でもそれは小学校までの話。中学になると俺ぐらいのレベルはたくさんいた。それでも虚仮(こけ)の一念で毎日毎日、暇さえあればラケット握ってひたすら練習してた。努力はした。あとは結果を待つだけだった。けど……神様が与えた結果は残酷だった。一年目は足の骨折、二年目は食中毒、大切な大会のときは必ずと言っていいほど不運なことばっかりだ。卓球だけじゃない。勉強だってなんだって、いつもそうだ。そしてそれは三年の最後の大会も例外じゃなかった」 俺は学ランの袖(そで)をめくり、肘(ひじ)まであらわにする。 そこには、もう見慣れた、何回も針で縫った生々しい傷跡がある。 「試合中にバランス崩して審判の机に突っ込んだとき、腐ってた机が割れて、破片が深く刺さったときの怪我だ」  覚えてる限りのことを丁寧に鬼龍院に伝える。  鬼龍院はじっと俺の傷跡を見つめていた。あまり見られたくないので袖を下ろして傷跡を隠す。
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