『 H A N A B I 』

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「きりーつ、礼、 さよーならあ」 「さよーならー」 日直の力の抜けた号令に、バラバラな声たちが続いた。 もう、皆心ここにあらず、という感じだ。 「お前ら、頼むからハメ外して警察のお世話になんかなんなよー。 酒なんか、もってのほかだぞ、 無事卒業したいならなー」 ぞろぞろとドアに向かって行くクラスメイト達の背中に、担任の木村山先生がのんびりと声を掛ける。 「はーい、バレない程度にうまくやりまーす! って!!」 先生がのんびり笑顔のまま、お調子者佐藤くんの背中を出席簿ではたいた。 「ね、ね、夏月、 会場行く前にさ、駅ビル寄らない? マリアンクレープ食べたい!」 後ろの席の咲が、前のめりで聞いて来る。 「いいけど…なんで駅ビル? 会場行けばクレープ屋さんなんてたくさんあるんじゃないの?」 「それはそうだけど、出店より断然マリアンの方が味がいいに決まってるでしょ? しかも今日なら皆あっちに流れるから、行列せずに食べれるって!」 成る程。 マリアンクレープは、駅ビルの中にある、人気のお店だ。 いつ行っても並ばずに買えたことはない。 咲はいつもこういう時の読みが鋭い、と感心しつつ…。 「ねえ、咲、本当にいいの? 中崎くんと行かなくて」 「いいの!もうアイツとは終わったんだから! 今は夏月だけっ」 「…それは、どーも」 呆れからくるため息をそっと飲み込んだ。 今日は年に一度、高校の最寄り駅近くの川で行われる花火大会。 地方でありながら、その歴史は中々に古く、観光目的というよりは競技花火大会として全国の花火師達が腕を競い合うというものだ。 季節は、花火のピークを外れて、残暑も薄れた秋口。 普段受験生として忙しい私達も、この日ばかりは放課後を楽しむことを許されていた。 彼氏がいる咲は、当然そっちと見に行くんだと思っていたのだけど…、 どうやら最近、大ゲンカをして別れたらしい。 咲はケンカっぱやいからなあ…。 そう思いながら教室の出口に向かう咲の背中を見ていると、急にこちらにクルリと振り向いた。 「夏月は、居ないの? 他に一緒に行きたい人」 ドキッ。
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