10人が本棚に入れています
本棚に追加
「ちょっと!慶一、もう少しゆっくり歩いてよ」
「ああ、すまない」
初めての会話から3ヶ月が経つ。
1週間くらい経った頃に優奈は僕のことを慶一と呼ぶようになり、1ヶ月もすると二人でいる時間が更に増えた。
キャンパス内では、僕たちが付き合ってるんじゃないか?
なんて噂が流れている始末。
しかし、そんなことはお互い気にも留めていなかった。
一緒にいることに違和感がなかったからなのか、それはよくわからないけれど。
彼女は僕の傍を離れない。
「これでもう41回目。一体、慶一はいつになったらわかってくれるのかな?」
優奈はにこにこしながら僕の顔を覗き込む。
「よく数えてるね。ちゃんとわかってるつもりだよ、優奈がいつも言ってくれてるからね」
人のペースに合わせることはどうも慣れない。
昔からそうだった。
誰かに何かしてあげようと慣れないことをすると、必ず上手くいかない。
だから慣れないことをするのはやめよう。
初めからそんなことをしなければ何の問題ない。
いつの間にかそう思うようになって、僕は人を避けていたのかもしれない。
何気ない素振りをしていても、頭の片隅には面倒だと思っている自分がいる。
それをひた隠し、世間体的には当たり障りのない生き方をするのが人間というものだ。
そんな人間のうちのひとり。
たったそれだけのことを昔はあんなにも嫌っていたはずなのに……
「たまに思うんだけどさ?慶一、いつもどんなことを考えてるの?」
「ん?」
ふっと消えるような。
たまにそんな感覚に陥ることがある。
最初のコメントを投稿しよう!