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本当はその理由をわかっていた。
決して遠くはない。
けれど近いわけでもない。
今でもあの事を気にし続けて生きているんだ。
『お願いやから、ウチの傍におって?ずっとずっと、傍におってよ……なぁ、ウチは離れたくないねん!慶ちゃんとは』
振り切ったはずのあの別れから、もう3年以上が経つ。
なのに今になっても、彼女のあの言葉は僕の頭に鮮明に残っていて。
今でも忘れられずにいる。
今でも……耳に残っている。
「ほら、今も何か考えてたでしょ?」
優奈は僕に問いかける。
咄嗟に我に返って、何事もなかったかのように笑顔を作った。
「いや、教科書持ってきてたかなって考えてただけだよ」
消えそうにないあの言葉は時間が解決してくれそうにもない。
もしそうなのであれば、とっくに忘れているはずだ。
それだけ僕にとってはとても衝撃的だったんだ。
人に求められ。
人に……引き止められたことは。
「ホントかな?ま、いっか。早く教室に行こ」
優奈は僕の腕を引き、講義を受けるための教室へと向かう。
「あの人、超カッコ良くない?」
「隣の人は彼女かな?いいなー。あんなカッコイイ彼氏で」
「なんかさ、お似合いって感じの人だよね」
今日もそんな言葉が聞こえる。
傍から見れば、カップルだと思われても仕方なかった。
優奈は最近、やけに積極的だ。
「はい、最後列から二つ前の一番左端。慶一の指定席だよね?」
「別に指定席とかじゃないんだって。たまたまだよ」
たまたまなんかじゃない。
高校最後の年も、僕の席は最後列から二つ前の一番左端だった。
もしかすると、ずっと何かを意識してここに座ってきていたのかもしれない。
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