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思えばあのときが僕にとっては一番、楽しい時期だったのかもしれない。
退屈を感じることもなく、いや、逆に忙しいくらいだった。
常識の通用しないバカが近くにいたおかげで、災難ばかり。
本当……迷惑だったよ。
講義が始まり、また退屈な時間が続く。
だだっ広いこの空間にはマイクの音声が響いていた。
講師が淡々と話し、生徒がそれを書き写したり話を聞いたり。
皆と同じようにそうしてはいるがここで何を学び、何を得たいのだろう。
なんのために高い学費を払ってまで、ここに居座っているのだろう。
「こら、ボーっとしない!」
僕の横に座っている優奈は小声で言う。
そうだな……こんなことをずっと考えていたって何かが変わるわけでもないんだ。
少しは楽しく生きてみよう。
何も考えず気楽に。
そうすれば、見え方も変わってくるかもしれないのだから。
それからは人が変わったように僕は明るく振る舞った。
自分を偽ることには慣れていた。
努力しなくとも、偽ろうと思えばいつでもできたがここへ来てからは一切してこなかった。
それはそうする理由もなかったし、意味もないと思っていたから。
でも、このままではますます僕に寄り付いてこない人が増えてしまう。
少しは変わってみよう。
自分から何かアクションを起こさなければ、きっと現状は何も変わらない。
欲しいものは自分から取りに行く。
そう背中で語った男を僕は知っている。
「ねぇ、今日はこのあと、どこ行く?」
「そうだなぁ……適当に街でもぶらついて、あとは優奈の好きなところでも行こうか」
とある日曜日。
僕は、今日も優奈と一緒だった。
最近になってからってわけでもないけど、本当に毎日のように僕たちは共に行動している。
映画を見たあと、外にある適当なベンチでこれからどうするかを話し合っていた。
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