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僕がそう言うと、優奈はとびっきりの笑顔を見せる。
「やったね!実は、新しい服が欲しかったんだー。疲れるかもしんないけど、ちゃんと付き合ってよねー?」
勢い良く立ち上がった彼女は僕の手を引っ張り、待ちきれんばかりに僕を立ち上がらせた。
「はいはい、僕なら大丈夫。買い物に付き合うなんていつものことだからね」
「あー、そんなこと言う?」
そんな冗談も、今ではごく普通に言える。
徐々にではあるが……僕は、優奈と一緒にいる時間を好きになっていた。
最初は、ただの退屈しのぎ。
言葉が悪いけれど、本当にその程度だった。
それなのに今は自分から話しかけることも増えていた。
少しずつではあるが僕は良い方へ確実に変化している。
いや、それは正しくはない。
彼女が僕を変えてくれている。
外の騒々しさも店内に入ると一瞬にして消える。
何度か連れられたこの店は優奈のお気に入りの店だ。
床や外壁は白を基調とし、大人向けのファッションを中心に取り揃えられている。
「これ、超良くない?マジ気に入ったんだけど!」
試着室で着替え終えた優奈は大きな声を出して、とてもご機嫌な様子。
「うん、似合っているよ」
と言っても、優奈は買い物が大好きでこういった店に来るといつもこんな感じだ。
スタッフとも仲が良く、会話さえも楽しんでいる。
「よし!奮発して買いたいところだけど、バイトの給料が入ってからにしよ。どうせ、あと一週間だしね」
「すみません。これ、ください」
優奈の言葉を遮るように隣に居たスタッフへ言葉をかけ、僕はレジへと向かう。
「ちょっ、何言ってんの?」
すると、優奈は僕の腕を掴む。
「いいからいいから。いつも良くしてもらっているお礼に僕から優奈へのプレゼントだよ」
そう笑顔で言い、会計を済ませて店を出た。
「いいのかなぁ……結構、値段する物なのに」
「気にしないで。僕が好きでしていることなんだから」
「ホント、世間で騒がれている俳優は言うことが違うね」
そう言えば……
最近、事務所にも顔を出していないな。
連絡は何度か来ているけど、返していない。
まぁ、何かと忙しかったことにするか。
「で、次はどこに行こうか」
「ちょうどいい時間だし、ご飯でも食べる?お返しに私の手料理食べさせてあげる!」
「お返しなんていいのに。じゃあ、そのお言葉に甘えさせてもらおうかな」
そして、僕たちは日が沈んだ街を歩き始めた。
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