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最寄りの駅から電車に乗り、一駅過ぎたところで降りた。
そこは栄えている駅で、辺りには人がごった返していた。
そこからはしばらく二人で話しながら歩く。
話題と言えば大抵が大学でのこと。
優奈は人当たりの良さからみんなの人気者で、所属するテニスサークルでもよく頼りにされていると周りから聞く。
本人は趣味程度と謙遜しているが実力は確かだ。
一度見に行った試合では素人目から見てもレベルが高いとわかる。
そのときは内緒で見に行ったこともあり、気付かれてとても怒られた。
本人曰く、大事な人が見に来てくれていることを試合中に気付くと必ず負けてしまうんだと。
僕の前以外ではどんな顔をしているのか。
ただそれだけに興味があってのことだったがそこには僕の前と何ら変わりのない優奈がそこにいた。
そこでも仲間に囲まれ、彼女は笑っていた。
人が寄り付かぬ僕と人に囲まれる彼女。
全く正反対の人間が常日頃から行動を共にしているということだ。
住宅街の近くには大きな公園があって、その中を抜けていく。
駅からは少し距離があってもこのコースなら飽きないな、なんて自分の家でもないのに勝手にそう思っていながら歩いていると彼女は僕と腕を組む。
先ほどベンチに腰掛けていたカップルを見たからなのだろうか、それはわからない。
「遠慮しないで上がって?」
都内にあるマンション。
最近になってできたのだろう。
外も中も汚れを知らない。
「お邪魔します」
一歩踏み入れた彼女の自宅。
印象は、いかにも女の子って感じの部屋だった。
カーテン、テーブル、その他のインテリアは優奈の趣味で取り揃えられたのだろう。
……どれも高そうだ。
正直、意外だった。
見るからに良いところのお嬢様という外見の彼女。
だが、自炊だってしっかりとできている。
「さぁーて、慶一のために頑張っちゃいますか!」
「張り切りすぎて、失敗するなよ」
たぶん、彼女は無理な嘘をついていない。
手際の良さから、料理ができるというのは嘘ではないだろう。
「自分以外の人に料理を作るなんて、ホント久しぶり」
「またまた。優奈になら、言い寄ってくる人も少なくはないと思うけどね」
「信じてくれないなら、信じてくれなくてもいいですよーだ!」
優奈はこっちを向き、舌を出して笑う。
そういうのを見ると、思い出さずにはいられない。
仕草や反応がどうしてか似ている、彼女のことを。
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