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あの日は……なんら変わりない、ただの平日の夜だった。
『ちょっと待っててな?別に大した物やないんやけど、ウチの手料理っちゅうもん見してあげるし』
『そんなん言うて、ホンマに美味いんか?いまいち信用ならんわ。なぁ、慶一もそう思うやろ?』
『へぇ、そんなこと言うんや。ほんなら、あんたにはなんもやらへんで?』
数年前、僕がまだ高校生だった頃。
今みたいに女の子に手料理を作ってもらったことがあった。
『相変わらず、きっつい性格してんなぁ?そんなんやし、良え男にモテへんねん』
『ウチは、そこらに居る変な男に興味なんかないわ。特にあんたなんか、願い下げやで』
そんな口喧嘩を毎日のように聞いていたような気がする。
いや、実際にそうだった。
飽きるほどに……この光景は見慣れていた。
『はいっ、慶ちゃん。遠慮せんと食べてや?ほんで、あんたにはこれ』
その日、目の前に出されたのは、良い感じに仕上がっている炒飯とサラダ。
どちらも僕らの好物だった。
『ちょっ、お前!いくらなんでもこれはやりすぎやろ?一口分くらいしかあらへんやんけ!俺は猫ちゃうねんぞ、猫でももっと食うわ』
『えぇ?ホンマ?悪いけど、ウチには慶ちゃんと同じ量にしか見えへんわー』
そんなやり取りを聞いていて、僕はいつも笑っていた。
二人は本当に僕を飽きさせなかったから。
いつもそばにいてくれて。
いつも……
そんな過去は、今でも忘れることはない。
いや、忘れられないからこそ、忘れてはいけないことなのだろう。
例えその思い出が僕を苦しめていたとしても。
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