10人が本棚に入れています
本棚に追加
「今、僕に何か言った?」
聞こえなかった言葉を聞こうと、一度尋ねる。
「え、何も言ってないよ。はい、傘」
そう言えば、天気予報で夜は大雨ですなんてことを言っていた。
今頃になって思い出すなんて……全く、ツイてないな。
僕は差し出された傘を受け取ったが、それを笑顔で優奈に返す。
「やっぱり、そんなに遠くないから走って帰るよ」
「え、大丈夫?」
優奈が寂しそうな目で僕を見つめたのは、たぶん気のせいなんかじゃなかったと思う。
「ううん、なんでもない。気を付けてね」
恥ずかしそうに目をそらす仕草に少し驚いた。
そういうタイプじゃ……ないと思っていたから。
優奈と別れ、激しさを増す雨の中をひたすら走る。
近いと言ったけど、実は嘘だったりする。
雨をしのげる適当な場所に立ち止まり、これからを考えた。
「なかなか、止んではくれないな」
近いのは家ではなくて、事務所の方。
この先にある曲がり角を進み、一番大きなビルの中にある。
雨宿り中に携帯を見ると、事務所からの着信が一件。
『やっと繋がった。ここ最近、電話に出てくれないから困ってたんだよ?』
「すみません。少し、授業についていくことができていないものでして」
適当な嘘吐いた。
ここに来てからは、嘘ばかりだ。
何かと……僕は嘘を吐き続けている。
最初のコメントを投稿しよう!