第1章 甦る過去

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「今、僕に何か言った?」 聞こえなかった言葉を聞こうと、一度尋ねる。 「え、何も言ってないよ。はい、傘」 そう言えば、天気予報で夜は大雨ですなんてことを言っていた。 今頃になって思い出すなんて……全く、ツイてないな。 僕は差し出された傘を受け取ったが、それを笑顔で優奈に返す。 「やっぱり、そんなに遠くないから走って帰るよ」 「え、大丈夫?」 優奈が寂しそうな目で僕を見つめたのは、たぶん気のせいなんかじゃなかったと思う。 「ううん、なんでもない。気を付けてね」 恥ずかしそうに目をそらす仕草に少し驚いた。 そういうタイプじゃ……ないと思っていたから。 優奈と別れ、激しさを増す雨の中をひたすら走る。 近いと言ったけど、実は嘘だったりする。 雨をしのげる適当な場所に立ち止まり、これからを考えた。 「なかなか、止んではくれないな」 近いのは家ではなくて、事務所の方。 この先にある曲がり角を進み、一番大きなビルの中にある。 雨宿り中に携帯を見ると、事務所からの着信が一件。 『やっと繋がった。ここ最近、電話に出てくれないから困ってたんだよ?』 「すみません。少し、授業についていくことができていないものでして」 適当な嘘吐いた。 ここに来てからは、嘘ばかりだ。 何かと……僕は嘘を吐き続けている。
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