第1章 甦る過去

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何故、多田という大物がここまで一般人に拘るのか。 しかし、良い意味で僕は前に進むことができたのかもしれない。 隙有らば潰してやろうとまで考えた、それ自体がエネルギーだったと思う。 「わかりました。もう嘘を吐いたりはしない。僕だって、一応は成人した身だ」 「懸命だな、話が早くて助かるが嫌々やってもらっても、こちらとしてはなんの得にもならない」 「僕は僕なりに仕事として勤めるだけだ。そうすれば、あなたが僕に拘る理由だってわかるのでしょう?」 すると、多田は少し微笑んだ。 「知ったところで……君自身が望んでいるような真実じゃなかったらどうする?」 意味深な問いに疑問を抱かないわけはなかった。 一体、何が目的だ。 ただひとつわかることは、こいつは自分の目の届く場所に僕を置いておきたいということ。 「だとしても、目の前にある謎の真相を知らずに笑って生きていけるほど僕は大らかな人間じゃない」 今までに数々の人間に触れてきた経験上、今は動くべき時ではないと悟る。 いや、何もわからない今は従う以外の選択肢はない。 「やはり、少しは見込みがあるようだ。仕事の予定は既に入れてある。後日連絡させるから待っていたまえ」 「では失礼します」 緊迫した空気から抜け出し、大きくため息を吐いた。 ますます謎は深まるばかり。 僕がこの街に来てからは誰にも過去を喋っていない、それは確かだ。 なのに何故知られている。 向こうで関わった人間など指で数えられる範囲。 その中で僕の全てを知っているのはあいつだけ。 しかし、どう考えてもあいつではない。 あいつは人を売るような、そんな下衆なことはしない。 なら、一体誰が…… 事務所をあとにし、とあるビルの屋上に足を運ぶ。 ここは、僕の唯一の居場所だ。 この東京の一部を見下ろすことのできる場所。 ただ……僕は多田の手の上でころころと転がされ、遊ばれているような気がしてならない。 彼こそ僕に近づいてなんの得がある。 ただの興味か、それとも余程の変わり者なのか。 「上等だよ。少しは退屈しのぎになるだろう。僕は、お前を超えてやる」 どうであったとしても、僕はやると決めた。 あんな挑発に簡単に乗るなんて、僕らしくもないが妙にやる気が出たのは事実だった。 先程までの雨はすっかり止み、雲の隙間から月が覗いている。 まばゆいばかりの壮大な夜景。 この街は……本当に眠らない。
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