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『慶一、もう……なんも苦しまんでええんよ?もう怯えんでええんよ?』
何故だ。
何故、僕は生きている。
あんな過去がありながら……何故。
『……もう、どこにも行かんといて?ウチの傍に……居って?』
未だ僕を苦しめるあの日の記憶。
胸を締め付ける、壮絶な過去。
『勝負や、慶一。これは、俺とお前の一騎打ちやぞ?』
嫌だ。
もう、見たくない。
流れていくのは遠き日の断片的な記憶だった。
その記憶に……今もなお、僕は囚われている。
「……ああ!」
暗く、そして静かな部屋に響く僕の声。
体は汗でびっしょりだ。
「またあの夢か」
悪夢……と、言えばいのか。
すぐさまシャワーを浴び、汗ばんだ体を洗い流す。
また、眠れない夜。
最近は見なくなったと思えば、それは再び戻ってきた。
多田と会い、過去を知られたことで思い出したからなのか。
少しでも……考えてしまったからなのか。
理由はどうあれ、この夢は月日が経った今でも僕を解放してはくれない。
体をタオルで拭き、ベッドに横たわると携帯が光っている。
確かめると、優奈からのメールだった。
『無事、家に着いた?』
たった一行と絵文字の付いたメールのおかげで、気分は少し落ち着いてくる。
心配してくれてありがとうと返信すると、すぐに返事が届いた。
普段、僕はこんな時間まで起きてはいない。
心配して、こんな時間まで優奈は起きてくれていたのだろうか。
気になった僕は優奈に電話をかけた。
「もしもし。ごめん、こんな時間に電話なんてして」
『良かった、ちゃんと返事が来て。それより何かあったの?』
優奈には、仕事上のトラブルとしか言えなかった。
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