第1章 甦る過去

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しばらく優奈と電話で話していても、心はまだ騒ついていた。 夢の中で見た、色褪せぬ出来事。 それは人生のクライシス。 否定できぬ……紛れもない事実。 『あはは、慶一、もしかして私がいなくて寂しいのー?』 電話の向こうで楽しそうに笑う優奈をよそに、僕は暗い部屋で無表情のままだった。 彼女の声、言葉は全く入ってこない。 ……違う。 僕が話したかったことは、こんないつものような無駄話なんかじゃない。 だけど、話すわけにはいかない。 個人的にそういうことはあまり好きじゃない。 話せば楽になるなんて、そんなことがあるはずないだろう。 それは、ただの気休めでしかないのだから。 これは胸の内にそっとしまっておくべきことなのだから。 話したところで……何も解決などしない。 「そうかもしれないね」 突然、優奈は黙り込んだ。 僕は沈黙に焦り、咄嗟に冗談だと言ってごまかす。 今日の僕は変だ。 いつもとは違う僕に優奈も少し戸惑い気味で、所々なんとも言えない空気が流れることもあった。 やっぱり電話ではなく、メールで返事をすればよかったな。 『今日の慶一、何か変だね……あはは』 「なんで笑う?」 『いや、ごめんごめん。なんか、そういう慶一って新鮮だなぁって思って。いつも変わらない、無愛想な慶一しか見たことないから』 そんな自分を見せたくはなかった。 「僕は、愛嬌がない人間だからね」 何があっても表情には出さず、何があってもいつも通りに。 『……会いたい』 誰にも迷惑をかけず。 「なんだって?」 ひとりの方が気が楽だから。 『慶一に会いたい』 もう、あんな思いをするのは嫌だったから。 そして、また雨が降り出した。 あの記憶を……再現するかのように。
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