第1章 甦る過去

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一体、何をしているのだろう。 この行動の意味を自分でも理解できない。 どしゃ降りの中、僕は傘も差さずに走っている。 ただただ走って、雨に打たれている。 多少の雑音は雨音でかき消されてしまうほどで。 さっきまで見えていた月も、今では分厚い雨雲に隠れてしまい影も形もない。 「祐司、由希奈」 また、心がひどく騒ついた。 突然、不意に口から出た二人の名前。 それと同時に、僕の足は固まったかのように前に進めなくなった。 全てを捨てたはずだった。 過去も名前も…… 全てを捨て、一からのスタートをしたはずだった。 何もかもをなかったことにしたはずだった。 ただ一言。 ひた隠しにしてきた本名を言われただけ。 それだけで、苦しみも悲しみも何もかもが蘇ったというのか。 まだ過去は僕を解放してはくれないのか。 厚かましいということはわかっている。 あんな過去がありながら、のうのうと生きている自分に時折腹が立つ。 生まれてきたことにだって後悔した。 生まれてこなかったのなら、ここまで苦しむ必要はなかっただろう。 生まれてこなかったのなら、誰にも迷惑はかけなかっただろう。 けれど、初めて生まれてきて良かったと思わせてくれた人。 この世界にも価値のあるものが存在すると感じれた人。 それは紛れもなく、口から出た名前の人物なんだ。 どうして僕ら三人は出会ってしまったのだろう。 出会なければ、三人はこんな思いをする必要もなかったのに。 「え……け、慶一?大丈夫?」 顔を上げると、そこには傘を差しながらとても驚いている優奈の姿があった。 慌てて傘の中に僕を入れ、今日買ってあげた真新しい服の袖で優奈は優しく僕の顔を拭く。 夢でも見ているようだ。 小さい頃もよく、こんな風に慰められていた。 「ちょっと!早くお風呂に入らないと、風邪引いちゃ……」 たった一本の傘は地面に落ちる。 僕は……力強く、優奈を抱きしめた。
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