第2章 動き出す歯車

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忌まわしき過去の惨劇。 あの日、あの瞬間から全てが始まったのだと確信している。 幼少期に起きた……両親の死。 それが僕の人生を大きく変えた。 その日も、大阪にある古びた小さなアパートの一室には地獄のような時間が訪れた。 「このボケ。こんなくだらん物、いつまでも持ちくさりよって!」 怒鳴り声、罵声が浴びせられる。 手に持っていた母から貰った手作りの人形をやつは奪い、床へと叩きつけた。 それだけでは飽きたらず、土足で踏みつけた。 認めたくはない。 しかし、これが僕の父。 「もう止めてぇや!この子には、なんにも関係ないやろ?」 踏みにじられ、ボロボロになった人形を守るように庇ったのが僕の母だ。 「うるさいわ。お前は黙っとかんかい」 鈍い音が鳴り、母は床に倒れる。 父は平然と僕や母に暴力を振るう最低な男だった。 たまに帰ってきたかと思えば、こんな風に好き放題暴れる。 酒に溺れ、働きもしないくせにギャンブルにばかり手を出し、借金まみれの生活。 取り立てが来れば父は逃げ、僕と母は取り残される。 でも、取り立てが来ることで逆に安心できた。 その時が唯一、父から解放される時間だった。 「コラ、居るんはわかっとんねんぞ!さっさと金返さんかい」 感覚が狂っていたんだと思う。 僕も母も、この声を聞くことで心が休まる。 やっと終わる……そう思えるからだ。 父はバツの悪そうな顔を浮かべ、ベランダからそそくさと逃げ、母は借金取りに頭を何度も下げる。 そんな非現実的な光景は、もう見慣れてしまっていた。 「慶一、ごめんなぁ?こんな辛い思いさせて。母さん、ホンマ情けないわ」 優しく僕の頭を撫でる母。 下手な作り笑顔がとても悲しかった。 「あっ、もうこんな時間か……帰ってくるまで、ちゃんとお利口さんにしててな?」 慌てて支度を始め、玄関で笑いながら僕に向かって手を振った。 とても寂しい気持ちになっていても、寂しいとは言えない。 母を困らせることはできない。 「バイバイ」 まだ若いのに朝から晩まで母は働き、疲れ果てて帰ってきても僕の前では笑顔を絶やさない。 僕が眠りについたなら、母はまた夜の仕事に出る。 その姿を……いつも、真っ暗な部屋から見ていた。
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