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胸ポケットからタバコを取り出し、火を点けた。
勢い良く吐き出された煙は風によって流され、いつの間にかどこかへと消える。
そんな風に跡形もなく消えてしまう煙を見つめながらふと思う。
そして、ポケットの中のある写真に手が触れ、それを取り出した。
『由希奈、バースデー』
それは彼女の誕生日を俺とあいつとで祝った際に撮った写真。
写真に写る三人は、楽しそうに笑っている。
幸せそうに……笑っている。
「最後まで何も知らへんかったんは、また俺だけやったんやな」
あいつの字で、丁寧に書かれた文字を見てそう呟いた。
何も変わっていない字の書体が胸を強く締め付ける。
何故なら、本当に何も変わっていないかのようにさえ感じるから。
そして深く……もう一度タバコを吹かした。
慌ただしく流れていく人波。
その中で俺だけが孤独であるような気がしていた。
辺りにたくさん人は居るのに俺だけがひとりぼっちのような気がしていた。
鼻の奥に込み上げてくる痛みを必死に堪えた。
あの時と同じように。
唇を噛みながら。
あの頃と同じように。
何もできない無力さを感じながら。
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