第2章 動き出す歯車

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その日、大型の強い台風が大阪を襲った。 比較的、台風の被害は少ないはずが今回は直撃。 朝から暴風警報が発令され、学校は休校となったため家で勉強をしていた。 母も今日は仕事が休みで、ゆっくりと休養が取れる……はずだった。 「いやっ……!」 ……そう。 よりにもよって、こんな日に父が帰ってきたのだ。 激しく扉を閉め、その音と同時に母は声を上げる。 「あ?俺見て、なんで驚くんやこのクソが!」 また……機嫌を悪くして帰ってきたのか。 一ヶ月程前に一度帰ってきたかと思えば、母が苦労に苦労を重ねて稼いだ給料を持っていき、すぐに家を出ていく始末。 それを賭博にでも使い、金が無くなったから帰ってきて、母に当たり散らすなんて。 コイツは心底、腐っている。 「ごめんなさい!ごめんなさい!」 髪の毛を掴まれ、部屋を引きずり回される母は何度もごめんなさいと言う。 鈍い音と、母の悲鳴がなんとも言えない。 こんなヤツに謝る必要なんてない。 謝る必要なんて欠片もない。 僕はとっさに、近くにあった辞書を父の顔にめがけて投げた。 「つっ……このクソガキ!」 それが上手く後頭部に命中し、奴の動きは止まったが物凄い形相で睨まれることとなってしまった。 酷く顔を殴られ、その勢いで壁に頭をぶつける。 もう立ち上がる気力すら僕にはない。 悔しさ故に涙が溢れる。 しかし、僕は必死に堪えようとしていた。 もっと、力が欲しかった。 誰にでも勝てるような強い力じゃなくていい。 コイツ一人倒す力でも構わない。 今は、コイツに勝つ力が欲しい。 でなければこの生活から抜け出せない。 この暗闇から光の当たる場所へは辿り着けない。 母や僕が一体何をしたというのか。 何故、普通なんてものはここに何一つとしてないのか。
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