第1章 甦る過去

3/21
前へ
/131ページ
次へ
毎日毎日、この街では必ず何かが起きる。 事故、喧嘩、ナンパ、その他の事件。 様々な事が入り乱れ、落ち着きを知らないこの街は本当に僕を飽きさせない。 「あ、あの人、こないだテレビで見た」 「マジ?誰なの?」 「ほら、前にやってた特番の!」 夕暮れに染まる街を歩いていると、女子高生が僕を指差しながらそんな会話をしている姿が見えた。 瀧井慶一。 それが僕の名だ。 この春、大学の三回生になった。 今は大学生兼俳優という肩書きだ。 何故、俳優をしているのか。 それにこれと言った動機はない。 ただの気まぐれ。 その表現が一番正しいだろう。 ……いや、違う。 本当の理由はそうじゃない。 もっと具体的で確かな理由がある。 僕はあの目に魅せられたからだ。 何もかもを見透かすような、あの嫌な感覚。 良くも悪くもあの目がきっかけだ。 世間的にはまだ名前も顔も全然知られていない。 先日放送された特別番組のちょっとした役がテレビ初出演だった。 「握手……してもらってもいいですか?」 「ああ、僕は構わないですよ。気を遣わないでください」 そう言って握手をすると、二人はとても嬉しそうにして人混みの中へと消えていった。 僕はしばらく歩いたあと、その辺りにあった適当なベンチに腰を下ろす。
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加