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毎日毎日、この街では必ず何かが起きる。
事故、喧嘩、ナンパ、その他の事件。
様々な事が入り乱れ、落ち着きを知らないこの街は本当に僕を飽きさせない。
「あ、あの人、こないだテレビで見た」
「マジ?誰なの?」
「ほら、前にやってた特番の!」
夕暮れに染まる街を歩いていると、女子高生が僕を指差しながらそんな会話をしている姿が見えた。
瀧井慶一。
それが僕の名だ。
この春、大学の三回生になった。
今は大学生兼俳優という肩書きだ。
何故、俳優をしているのか。
それにこれと言った動機はない。
ただの気まぐれ。
その表現が一番正しいだろう。
……いや、違う。
本当の理由はそうじゃない。
もっと具体的で確かな理由がある。
僕はあの目に魅せられたからだ。
何もかもを見透かすような、あの嫌な感覚。
良くも悪くもあの目がきっかけだ。
世間的にはまだ名前も顔も全然知られていない。
先日放送された特別番組のちょっとした役がテレビ初出演だった。
「握手……してもらってもいいですか?」
「ああ、僕は構わないですよ。気を遣わないでください」
そう言って握手をすると、二人はとても嬉しそうにして人混みの中へと消えていった。
僕はしばらく歩いたあと、その辺りにあった適当なベンチに腰を下ろす。
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