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『良かった……良かった、心配したんだからね!』
『だからね! って言えば都合よくツンデレキャラになれると思うなよ』
『うるさい、あんたが結婚記念日に旅行に行こうなんて言わなければこんな事にはならなかったのよ』
僕に抱き付き泣き喚く母、そして安心したような表情で僕を見つめる父。
僕の膝元に抱き付く母親に視線を向けたその時だった、栄養を体に送るための点滴のチューブ意外の場所に……包帯が巻かれていた事に気付いたのは。
僕は閉じ込められただけで外傷は無かったはず、それなのに僕の手には包帯が巻かれていた。
外そうとすると、『外しちゃ駄目よ!』と母に言われ、仕方が無く一体この包帯が何なのか母親に聞いて返って来た答えが、
『あなたがドアを殴りつけたんじゃない……覚えてないの?』
だった。
覚えは無かった。意識を失う前……そんな事をした記憶はない。
よく見れば手だけではなく、足まで包帯が巻かれていた。
何度も何度も殴りつけたのか皮膚が擦れてぼろぼろになり、硬い物体を殴りつけたせいで、大きく腫れあがっていたという。
僕もその時は覚えがないだけで、無意識の内にそんな事をしてしまったのかとも思った……が、違った。
それは間違いなく僕が自分でつけた傷であって、僕が自分でつけた傷ではない。
聞こえたんだ、聞こえちゃいけないはずの声が。
『……良かったな』
極限の状態に追い込まれ、孤独による恐怖、死ぬのではないかという恐怖を抱く中、何も見える事のない暗闇の空間の中で、
僕の中に、もう一人の僕が生まれた。
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