第一章 ダブルフェイス

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 心臓の音が止まらない、汗も、焦りも、そしてなにより……『恐怖』が止まらない。 『代われ』  ……嫌だ。 『代われよ』  絶対に駄目だ。 『いいから……代われ』  お前は……出てくるな。 「おいおい……どうした? 汗、凄い事になってるぞ? そんなに怖いか……? はは! 大丈夫だって……その内斬り刻む快感に目覚めるからよぉ」  違う。僕はそんな事を心配しているんじゃない。  僕はむしろ……。 「い、今すぐその子と僕を解放しろ!」  思わず出てしまった言葉に、タトゥーギャング達とユキちゃんは唖然とした表情になった。 「……はぁ? お前どうした突然? さっきまでの往生際の良さはどうしたよ? あ?」  タトゥーギャングのリーダーの言う事は尤もだ。  だが言わずにはいられない。 「いいから放せってんだよ! 今すぐに! 僕とその子を! じゃないと取り返しのつかない事になる!」 「助かりたいのはわかるけどよぉ? 相手見てもの言えよな? 取り返しのつかない事なんて……俺達はもういくらでもやってるんだよ」  違う……! お前達の事じゃない!  『代われよ』 『代わらないのか?』 『じゃあ……あれだ』 『代わるわ』  まずい……まずいまずいまずいまずいまずい。 「頼む……お願いだ! 今すぐに僕達を放してくれ。そうじゃなくても……別の方法を……!」 「おいおいがっかりさせんなよ、今更命乞いかぁ? 命無くす訳じゃねえんだから覚悟決めろや」  ち が う!  違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!  僕は……僕は! 「僕はお前達の事を心配して言っているんだ! これ以上僕の精神に負荷をかけるのまずい! このままだと……」 「このままだと? 発作でも起きるか?」  そうじゃない。  その事をはっきりと言葉にして出すために、僕は再び大きく息を吸い込んだ。  そして……、 『この場にいる全員が危険なん……だ……』  ……僕が再度言葉を放った時には、もう全てが手遅れだった。
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