第一章 ダブルフェイス

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「おいおい……急に静かになってどうしたよ? このままだとどうなるんだ?」  ちゃんと説明するのならば、僕の言葉は『放たれなかった』。  放たれはしたが、それは僕という存在の認識でしかない。  さっきまで必死に体と言葉で抵抗の意を見せていた僕の身体が、嘘だったかのようにぴくりとも動かなくなった。  だから僕は身体を動かそうとしてみた。  でも動かない。 「っぐぁ……うぁ!?」 「って、てめえ! っが!?」  そして次の瞬間、動かそうとして動かせなかった身体が突然、認識出来ない程の速度で動き出した。  ユキちゃんやタトゥーギャングのリーダーには僕が動いていないように見えただろう。  でも僕が何かをしたというのはわかったはずだ。  僕を拘束していたタトゥーギャング三人の体がほぼ同時に、それぞれの後方に三十メートルくらい吹き飛んだからだ。  一人は壁に激突してぐったりしている。  多分……多分だけどぎりぎり生きている。そう信じたい。 『逃げろ』  僕はそう言葉にして、タトゥーギャングのリーダーに向かって放った。  でも……届かない。  僕は今、僕でありながら、僕の中で、僕と僕から見える光景を傍観している。  つまり、僕は今……自分自身の体を自分の意志で制御していない。  じゃあ今、誰が僕の身体を操作しているのか?  ……それは、『僕』だ。 「おい……お前今……何やった? お、おい言う通りにその子を放してやれ」  今になって恐怖を感じたのか、タトゥーギャングのリーダーはユキちゃんを解放するようにタトゥーギャングに命じた。  だがそれも……最早今更としか言いようがない。 「おい……だ、黙ってないで何をやったか言えよ! お前の言う通り解放したんだからよぉ!」  タトゥーギャングのリーダーの焦った表情で放たれたその言葉を聞いた次の瞬間。  僕の口から……、 「……皆殺しだ」  信じられない言葉が放たれた。
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