第十ニ章 さようならで終わる 俺の物語

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 俺たちを冷たく突き放し、あまつさえ死んでしまえと言葉にした一般人もアキトは許すつもりはなかったのだろう。いや、普段のアキトならきっと許していた。  でも、募りに募った怒りは、追ってきた連中だけでは晴らすことは出来ず、アキトは一人で街の中へと入り込むと、次々に、自分を今まで蔑み、邪魔者扱いしてきた連中を子供、大人問わずに襲い掛かった。  殺さずに痛めつけるだけで終えたのは、まだアキトの良識が残っていたからなのだろう。それでも、自分で制御できずにやりすぎになって死んでしまった連中はたくさんいたはずだ。  解放されたあとの親父たちでさえも、アキトを止めることは出来なかった。  結界も、固定された空間さえもただの『力』で捻じ曲げて破壊し、思うがままに暴れた。  街全体が血の海へと化し、人々のうめき声で溢れ、助けを求める人々で埋め尽くされた時、ようやくアキトは正気を取り戻した。 『だから言ったんだ……こんな危険なの放っておくなって』 『この化け物……あんたなんか死んじゃえばいいのよ』 『やっぱ……殺すべきだったんだ…………こんなの』  自分がやってしまったことを悔いていたのか、アキトは震えていた。自分がやったのか? と、訴えかけるような目で俺を見ていた。そして、生きる希望を捨て去ろうとしていた。  当然だ。ただでさえ窮屈だった世界が、自分が手にかけたことで存在すら許されなくなったんだ。  でも、それはあまりにも不憫すぎた。  俺は、親父に『頼む』と言われた。でも、俺は守り切れなかった。アキトをなんとかしてやるってずっと言ってて、結局何もしてやれなかった。何より……アキトの抱えていた苦しみを何もわかっていなかったそんな自分が情けなくて、俺は覚悟を決めた。 『馬鹿野郎』と言葉を吐きかけて、俺は優しくアキトの肩をポンッと叩いてやった。それが最後になると思ったから、最後にお互いが存在したって感覚を確かめたくて、俺は泣きながらアキトを抱きしめた。 『不安か?』  きっと不安という次元を通り越していたのだろう。アキトは震えあがって身体を小刻みに動かしたまま……何も答え返さなかった。  建物は崩れ、火が燃え上がり、人々のうめき声の上がるその中心で、俺たち兄弟は確かにそこにまだ存在していた。
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