第十ニ章 さようならで終わる 俺の物語

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『……泣くなよ?』  我ながら、なんの説得力もなかったように思う。自分も、泣いていたから。 『これからはもう……蔑まれることもない。誰からも冷たい目で見られるようなこともない。お前が望んでいた生活が待っている。もう……安心していいんだぞ? ……だから泣くな』  アキトは困惑していた。諦めて逃げるように自害しようとしていた直後の俺の不可解な言葉に、目を見開いて「……え?」と言っていた。 『いいかアキト? どんなに辛いことがあっても、誰かを失うことになっても……どれだけ自分の手を汚しても、それでも、逃げるためだけに自分から死のうなんてしちゃいけねえ。だから、これは俺からの……兄ちゃんからの最後のお前への願いだ』  その言葉の真意に気付いて、親父とおふくろが止めに入ろうとしたときには、もう全てが遅かった。 『ただひたむきに……前へと進み続けられる者になれ』  出来るかどうかはわからなかった。でも、それは賭けに近かった。 『はん……難しいか?』  だけどやらなきゃいけないって思った。ここでやらなきゃ、きっとアキトはいなくなっちまう……そう思ったから。 『絶対に諦めるなって事だよ』  ……何をしたと思う? どうなったと思う?  そこにいた連中、それを見ていたであろう連中、その全てからアキトに関する記憶の全てを抹消してやった。そして、アキト自身の記憶からも、今回のこと、暴れまわったこと、全ての記憶を奪い去ってやった。 『トキア……? 何をしたの? ねえ……アッ君に何をしたの? 皆に何をしたの……何がどうなってるの?』 『うろたえなんよメイ姉……記憶を消しただけだ。俺が存在してたって記憶も一緒にな……』 『……どういうこと?』 『俺の口から大量に出てる血を見たら……なんでそうしたかくらい……わかんだろ?』  俺の命と引き換えに。
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