第十ニ章 さようならで終わる 俺の物語

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『トキア……お前、何やってんだ?』  親父とおふくろが駆け付けた時には、既に手遅れだった。いや、むしろ手遅れにさせたと言うべきか? 親父とおふくろがいれば絶対に止めたからだ。  そして、アキトが暴れたことによって解放された親父たちがこのタイミングで来るのも想定済みだった。  身体が弱かった。だからずっと何もしてやれなかった。でも、命を使えばたった一度だけど、アキトの辛さをなかったことにしてやれる。  一人だけでも大きな負担を掛けるのに、広範囲に渡って力を使った代償は果てしなかった。自分でも、ああ……死ぬんだなって理解できた。でも逆に、どうせ死ぬんだったらその命が尽きるまでスキルを使い続けてやろうって気持ちになれたのがせめてもの救いだった気がする。 『馬鹿よあんた……どうするの、ねえ茂! 何とかならないの? ねえ! ねぇ?』 『落ち着け……落ち着けよ、今すぐ気を当てて治療……いやそれじゃあ無理だ。すぐにマクシムさんの元に行って……駄目だ、このダメージをすぐになんとかできる施設なんてない。落ち着け……落ち着け』  思わず笑っちまった。あんなに慌ててるおふくろと親父を見るのは初めてだったから。 『茂お兄ちゃん! お願いトキア君を助けて!』  メイ姉も、かつてないくらい慌ててたな。 『……トキア? どうしたの? どうして、動かないの?』  スキルという仕組みをまだよく理解出来てなかったのだろう。レイラは何が起きたのかわからない様子で俺を見て瞳を潤ませてた。今思えば、とりあえずヤバいってことだけは理解してたんだろうな。 『親父……もういい、というより、これでいいんだ』 『何言ってんだお前。諦めんな!』 『いいんだよこれで、ほら……俺と……親父で考えた…………ナノマシンの活用方法。最後の人格部分…………その制御を俺がする。出来るはずだ。人の脳内に干渉する俺の力なら……きっと』  この日は、親父の色んな顔を見ることができた。喜怒哀楽全部見れたと思う。あんな真剣な表情も初めてみたな。  親父は、俺のその言葉を聞いて目を見開いて俺を睨みつけていた。言いたいことはわかっていた。「お前にこんなことをさせるために、それを作ったんじゃない」って、ひしひしと伝わってきた。
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