第十ニ章 さようならで終わる 俺の物語

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 ナノマシン。それは俺や親父が開発したものじゃなく、ゼクセルおじさんが生まれた遥か遠い宇宙に存在する研究所、そこに保管されていたもののことだ。  親父でさえ、ナノサイズに作られたその精密な機械のシステムを構築するのは難しく、せいぜい既にあるナノマシンを利用して改良を施すくらいしか出来ない。  解析しようにも、ブラックボックスに包まれている点が多すぎるからだ。  親父がナノマシンを作った存在を天才と呼ぶほど、遥か先を進んだテクノロジーが使われているとのことだった。実際俺も見たが、最早どうやってナノサイズのそれを作ったのか逆に聞きたいくらいに複雑な構造だった。  でも俺たちはそれを改良した。力を与え、より強靭な肉体に改造する本来の役割を持ったナノマシンの性能を反転させ、力を抑えるものへと昇華させた。  ナノマシンは戦わない時、体内の気と呼ばれるエネルギーを吸収して蓄え、戦闘時にそれを放出することで昔のゼクセルのおじきのように、気を放出し続けて稼働し続けられる力をもっている。それを利用した。  力を吸収し、常に体外へと排出し続ける。それでアキトの力を極限まで抑えることが可能になるはずだった。  だが一つ問題があった。それは、ナノマシンが人体の精神に大きく影響を及ぼすということだ。  ナノマシンを投与された者は例外なく、『人間』という存在に対する思考が過敏になる。そして、最終的には憎み、滅ぼしたいと考えてしまうようになる。  無論、それは基本的な精神の強さによって影響は違うし、人によっては乗り越えられる……が、遅かれ早かれその症状は必ず出てしまう。  実際、ゼクセルのおじきも、未来にいた英雄って奴も、一度は人間を滅ぼすって考えに転んだって話だ。  でもアキトにそれが起きると、間違いなく世界がヤバいことになる。  ゼクセルのおじきたちは説得が可能な時間がまだあったらしいが、アキトはきっと、そんな時間も与えられることもなく、世界を滅ぼす。その確信があった。  今回、ナノマシンがないのに暴走したのがいい例だ。どっちにしろ、ナノマシンが無くてもストレスが上限に達した時、アキトは自分を抑制できなくなる。  だから、そのナノマシンを投与せずにいた。  でも、その心配はもういらない。俺が、アキトのストレスを全部請け負えばいいだけだから。
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