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『……俺は、お前にこんなことさせるためにあれを作ったんじゃない!』
『わかってるよ……俺も、こんなことをするつもりはなかった。でも、こうなったら仕方ないだろ? 悪いのは全部……この状況を作った奴らだ』
『トキア……それは違う』
『何が違うってんだよ……ガキの俺に、わかりやすく説明……んな時間も…………もうないか』
親父は最後まで、俺に人を恨むなと言ってきた。でもそれは無理だった……今でも人の大半は糞だと思ってるし、自分のことばかりで、誰かを犠牲にして成り上がろうとするやつや、被害がこうむれば事情も聴かずに責めたおすような連中ばかりだ。
でもそうじゃない人がいるのを俺は知っている。だから、そうじゃない人のためにこの命を使うのは、何の躊躇いもない。ましてや、アキトになら。
『いや……だ。いやだ……そんなの…………いやだ』
『アキト……お前まだ記憶が?』
完全に記憶を消し去ったと思っていた。恐らくアキトのスキルが抵抗したのだろう。脳内に直接関与するスキルに抵抗とか……どれだけ化け物なスキルなんだってこの時初めて肝を冷やしたよ。
だが、やはり効果は出ていたのか、アキトの目は今にも死にそうな俺と同じくらい虚ろだった。
『いつまでも甘えてんなよ……俺はもう、傍に居てやれないんだからさ』
『なんで……なんでこんなこと! 兄さんがいなかったら僕! 僕は……!』
『これからはもう…………一人で生きてかなきゃいけないんだぞ? しっかりしろ』
アキトは俺がいなくなることを最後まで拒んでいた。それが、記憶がなくなるからなのか、俺という守ってくれる存在がいなくなってしまうからなのかはわからない。
でも俺は、どうせ人生を捨てるなら、アキトから大丈夫という言葉を聞いてから消えたかった。だから何度も聞いたんだ……『一人で大丈夫か?』って、でも、答えは無言で首をブンブンと左右に振るだけだった。
『わかったよ……大丈夫。安心しろ……俺がいなくなったからって苦しまなくていいよう……に、してやっから。俺に……任せ……な』
『ごめん……ごべんなざいっ!』
アキトは最後の最後まで、俺に謝りっぱなしだった。
心残りだった。でも、俺の命の炎はその納得を得られるまで待ってはくれなかった。
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