第十ニ章 さようならで終わる 俺の物語

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『じゃあな、アキト』  アキトに俺がやったのは3つ。まず一つは、記憶の消去。俺が生まれたことや、今回の一連の騒動が起きたという事実全てをなかったことにしてストレスを0に戻した。  次にアキトの記憶とスキルの制御、これは……この時は出来るかはわからなかった。だが出来るという確信はあった。俺のスキルの力が、『記憶を操作する』ではなく『脳内に干渉する』だったからだ。きっと俺の力ならアキトのスキルを抑え込むことができると思ってたが……出来なかった。出来なかったというより、出来たがすぐに元に戻された。  アキトのスキルは強力すぎた。抑えこむのも困難な程にだ。常にその脳の部位に負担を与え続けて、そのスキルの真価を発揮しないようにし続けるのが精一杯だった。  でも、俺の身体はずっとは持たない。  だから、いや、元々そうするつもりだった方法で俺はアキトのスキルの力を抑え込むことに成功した。それが、俺自身がアキトの脳内に入り込むという方法だった。  そう、俺はアキトの脳内に俺というもう一つの人格を形成させた。  俺の魔力とスキルの力で作られた俺自身、俺というコピー。アキトという存在が消えてしまわないように慎重に、俺という存在をアキトの脳内に仕込んだんだ。  そして、俺の身体は朽ちた。いや……俺の身体というより、俺のオリジナルというべきだろうか? 俺は所詮、オリジナルに作られたコピーでしかない。 『嘘よ……こんなの、嫌よ……トキア、トキア?』  死んで行く俺を母さんがずっと認められず泣き続けていた光景は、今思い返しても妙な感覚だ。  俺は死んでいるはずなのに、アキトの身体の中にいたんだから。 『茂……? 何してるの? アキトをどこに連れて行くの?』 『……トキアの想いを無駄にしないためにも、俺は……今すぐアキトを連れていかなきゃならないところがある』  そして……最後の一つ。力を抑えるためのナノマシンをアキトに投与すること。俺という存在がアキトの中に入り込むことで、ナノマシンの精神汚染を受けずに済むようになったからだ。  ここまでして、アキトはようやく、普通の生活を手に入れることができたんだ。
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