第十ニ章 さようならで終わる 俺の物語

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 そして俺という存在はこの時既に終わっている。  アキトの中に存在している俺は所詮、最後の命の灯が移り住んだだけの存在にすぎない。アキトの中で、記憶を制御し、スキルとナノマシンが暴走しないように見守り続ける存在でしかない。  俺は、最初からいない存在として扱われることになった。それが俺の願いだったから。 『トキアは……もういない。いや、最初からいなかったことにして欲しい。せめて、アキトの前だけは……難しいこと言っているのはわかるが、頼めないか?』  そして、それは親父の口から皆に、俺の遺体を弔うために集まった時に伝えられた。  きっと皆苦しかったと思う。別に俺が愛されていたとかそういうことを言うつもりじゃない。単純に、知っている人物を知らないように振る舞うのは難しかっただろうって意味でだ。 『ヤダ……ヤダヤダ! だってそんなのトッキーがかわいそうだよ! あんまりだよ!』  意識を失ったアキトの中で、レイラは最後の最後まで駄々をこねていたのを今でも覚えている。  あれは辛かった……俺のことを想ってくれればくれるだけ、もう触れ合うことは出来ないのだと消えてしまいたくなった。 『トキアを蘇らせることは出来ないのか? 茂……お前の身体をそうしたように』 『俺はスッピーがデータを残してくれたから戻れたけど……トキアのデータなんてもう存在しない。今からデータを残すにしてもトキアの身体はもう……』  ゼクセルのおじきも、なんとかしようと色々と提案したみたいだが無駄だった。そりゃそうだ、俺だって死ぬつもりなんてなかったんだから。  でも、こうなった以上は最後までやろうと覚悟していた。  アキトの中で、アキトが普通に暮らせるようにと。  正直、不安もあった。本当に俺はアキトが普通に暮らせるようにしてやれるのかと。もはやスキルが残した存在でしかなくなった俺に出来るのかと。  だが、案外普通に上手くことは運んだ。マクシムさんの協力もあってアキトが起こした様々な問題はもみ消され、アキトが起こした問題は別の何かが起こした一件としてすり替えられた。  アキトを忌み嫌っていた連中もアキトを悪く言わないようになり、アキトも力をなんとか抑えつけて普通以下の子供を演じ、普通に過ごせるようになった。 『あれ……あれ!? で、出れない!』  それでも、問題は起きた。
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