第十ニ章 さようならで終わる 俺の物語

25/38
前へ
/596ページ
次へ
 アキトの身体を俺が奪って制御していることに親父たちが気付いたのは、それから少しあとのことだ。全てが丸く収まって、アキトの暴走が止まったと考えていた親父たちの耳に、街の治安を荒らしていた族を再起不能なくらいにボコボコにしたという話がまいこんできてからだった。  無論、やったのは俺だ。スキルの影響か、アキトの身体は常人を越えた力をもっていた。でも俺自身にはスキルの力の影響があるわけじゃなかった。だから、アキトから見れば俺はアキトの力を使いこなしているように見えただろう。実際は、スキルの影響で強化されたアキトの身体で暴れただけで、アキトの本当の力を扱っていたわけじゃない。  それがわかっていたから、俺はアキトに代わってストレスの原因を潰し続けられた。 『アキトじゃないな……誰だ?』 『ストレスの原因を潰す者……これだけ言えばわかるか?』  親父は、その一言で俺であると理解した。そして、皆に気付いていない振りをするように命じた。アキトにない記憶の存在を、皆が知っているとなれば、アキトが詮索を始めてしまうからだ。  俺が外に出ている間もアキトの意識は覚醒したままだ、だから、そうするしかなかった。  無論、俺との会話を完全に制限したわけじゃなかった。  丁度それから一年後くらいだろうか? ダイブネットによるサービスが開始されたのは、そこにアクセスしたアキトと分離して、俺という存在が単体で形成されたことから、親父はダイブネット内で限り、俺と会話することを皆に許した。  正直俺から話すことはほとんどなかった。いくら話したところで、俺の人生が戻るわけじゃなかったから……なんていうかな、むしろ惨めな気持ちになったんだ。いや、羨ましくて妬ましくなっちまった。だから、俺は皆を突き放した。 『どうして……あんなことを?』 『アキトのストレスが限界に達しようとした。あのまま放置してればあいつはまた暴走していたはずだ。だから……俺が代わりにボコボコにしてやったんだよ』 『だが……あそこまでする必要性はなかっただろ!』 『通りすがったアキトがうっかりぶつかっただけで殴りかかってきたような連中だぞ? あんなの温いくらいだ……むしろそんな奴らを庇う親父がわからねえ。あんな奴らがいるから……アキトも、俺も……!』  きっと、アキトじゃなくて、俺個人が恨んでいたんだと思う。
/596ページ

最初のコメントを投稿しよう!

78354人が本棚に入れています
本棚に追加