第十ニ章 さようならで終わる 俺の物語

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 あいつは、今回の事件を通して自分の力を自分で制御できる力を身に着けた。今のアキトなら、自分の力を最大限に発揮できるだろう。きっと、本当は前々からそれが出来る力をもっていたのだと思う。それを扱うための術を得るのを、ずっと俺が邪魔していただけだったんだ。  変に手を加えることで、あいつの力に対する感覚を狂わせていたのは他でもない、俺だった。 「ああ……じゃあやっぱり、俺はもういらないってことか」  少し悲しかったが、それ以上に満たされた嬉しさが胸の内に広がっていた。  ゼクセルのおじきにあいつは臆さずに立ち向かっていった。この世界のために、思うように動かないその身体で懸命にあいつは頑張っていた。昔、守られるだけだったあいつはもういない。 『もう……僕は大丈夫。だから、心配しないで。安心して……任せてほしい』  ……こんな状況なのに、涙がこみ上げてきやがる。「任せろ」って言葉は、俺の専売特許だったはずなんだがな。 「……トキア」 「よぅ……メイ姉。もう戦う理由はねえし、ゆっくり出来るな」 「でもトキアの身体が……!」 「いいんだよ。俺の命はあの時にもうなくなってんだ。今更改めてちゃんと死ぬからってなんだってんだ……なあレイラ?」  既に、身体の感覚はなかった。意識も朦朧としている。身体はジャギが掛かったように薄れて透明化している。痛みはなかった。そのせいか死ぬという感覚よりも、「ああ、消えるんだな」ってなんとなくの実感しかない。 「でもトキアがいなくなったら……アッキーが」 「あいつは大丈夫だろ。あいつが大丈夫って言ったんだ。大丈夫だ。最後に置き土産もしてやったしな。俺も、もう大丈夫って思えたから満足さ」  最後の最後まで素直に「まだ一緒にいたかった」と言葉に出来ない捻くれた自分に失笑する。それを言葉にすれば、皆の心にシコリを残すことになるだろうから。 「顔に……出てるよ?」  そう言って、メイ姉は察したかのように俺の頬に手を置いた。  敵わねえ。結局メイ姉には最後の最後まで全部お見通しだったわけだ。……いや、違うか、無意識の内に「まだ消えたくない」って顔に出てたんだろうな。顔がなんか濡れてる。
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