第十ニ章 さようならで終わる 俺の物語

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 あのレイラにでさえ気付かれて、悲しそうな顔で「……トッキー」って呟きながら手を握ってきてるんだ。きっと情けない姿をさらけ出してるんだろうよ。  ああ……もう声も出ねえ。  確か、親父やおふくろもこの光景を中継で見てるんだよな? 随分と情けない姿をさらけ出してるもんだ。  まあ……いっか。どうせ俺はもう消えるから。  どうせ消えるなら最後に、伝えておきたい。口パクで伝わるだろうか?  いや、伝わってほしい。ず……言えなか……と、から。 『ありがとう 本当は大好きだった』   ………………伝わっただろうか?  よし……あ…………頼んだ……トキ………皆を守っ……く……。 ――――――――――――――――――  そこは、静かな空間だった。カプセルから噴出した煙の中から静かに立ち上がって、僕はすぐさま周囲を確認する。そこには、ダイブネットに今も閉じ込められているだろう人たちが入っている無数のカプセルが大量に置いてあった。  きっと、今もこの人たちの身体を解析し続けているのだろう。自分の力にせんがために。  許せない行為だった。僕の心は怒りに満ち溢れていた。  今すぐこの非道を止めて事態を収拾しなければいけない。いけないはずなのに、何故か僕は落ち着いていた。その心に怒りを灯しながら、妙な安らぎが僕を包んでいた。  慌てる必要はない。そう言われているような気がして。 「お目覚めかな?」  悠長にまずは深呼吸と、背伸びをしていると、突如余裕の垣間見える醜悪な声が響き渡る。
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