第十ニ章 さようならで終わる 俺の物語

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「気分はどうだい? まずはおめでとうとだけ言わせてもらうかな。まさかあの状況で出てくるなんて思わなかったよ。本当は……解析を終えたもの以外は出すつもりはなかったんだけどね」  その存在は円形に広がりカプセルが並ぶ部屋にある、唯一の出入り口らしき場所から悠々と歩きながら姿を現した。  顔立ちはどこか、クレイドに似通っていた。少しだけだが、ゲリウスの面影も少しだけ残っている。クセのある長い白髪、長い眉毛に似合わない三白眼、ちゃんとご飯を食べているのか疑ってしまうくらいに?せ細った身体。  彼が子供の頃に一度見た頃から大きな変貌を遂げたセス=ティモープと僕は対面する。 「僕の筋書きはこうだった。解析を終え、その力を手に入れた僕が外に出てきた達成者を倒すことで誰が世界の頂点たる存在かをダイブネットに囚われている者たちに植え付け。絶望を与える」  そして部屋の中央で黒幕は立ち止まると、黒幕の位置から十段くらい上層で、まだカプセルから出て立ったばかりの僕へと視線を向ける。  隙だらけだった。隙だらけすぎて、僕は思わず鼻で笑ってしまう。 「……何がおかしいんだい?」 「いや……? 別に?」 「随分と余裕なんだね? ようやく君たちが倒すべきラスボスとご対面できたっていうのに?」 「ッフ、あは、あははははははは!」  その言葉で、僕は遂に我慢できなくなって声を出して笑ってしまった。 「何がおかしい?」  僕の行動が意にそぐわなかったのか、黒幕は眉間に皺を寄せる。 「いや、ツッコミどころが色々とありすぎておかしくなっちゃって。そんなに僕に殴りに来てほしかったのかな? 相手を騙してやるぞーって子供がはしゃいでるようで少し滑稽に思えてね。何々? 僕から攻撃を仕掛けた時ように何か対策があるんでしょ?」  図星なのか、黒幕は苦虫を噛み潰したような表情を見せる。 「それにさ、誰か一人でも到達したら全員解放するんじゃなかったの? 何で僕だけなの? もうそれだけでよっぽど慌ててんだなーって思えちゃってさ、ダサくて笑っちゃうよね?」 「き、君たち親子は……僕の怒りを買うのがよほど好きなようだね……」  取り乱す黒幕とは裏腹に、僕は妙に落ち着いていた。そしてかつてないくらい、頭の中が冴えわたっていた。僕の中で、兄さんが力を貸してくれているかのようだった。
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