第十ニ章 さようならで終わる 俺の物語

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 力が際限なく溢れてくる。力が力を包み込めるくらいに、言葉にしようのないエネルギーが僕の中で渦巻いている。  同時に気付く。僕は昔、この力に飲み込まれてしまったのだと。当時の僕の感覚が痛いほど伝わってくる。少しでも油断すれば、その力に飲まれて全てを放出したくなる焦燥が襲い掛かる。  でもそんな力をずっと、兄さんは止め続けてくれた。僕が今に至るまでずっと、ずっとだ。  僕はその想いを無駄にしてはいけない。冷静になれ。落ち着いて深呼吸しろ。 『さっきから君が何をしたいのかわからないんだが?』 「僕もこの力を持て余しているってことだよ。なんせ……十一年ぶりくらいかな? ずっと封印されてて、それくらい使ってなかった力だからね」 『なるほど、通りですぐに気付けなかったわけだ。惜しかったなぁ……君のその力が手に入れば、僕の計画はより確実になったはずなんだが』 「もて余すだけだと思うけど……それより、あんたが何をしようとしていたのか、ちゃんとあんたの口から聞いてなかったね。何が目的でこんなことしたのさ? 皆の力を奪って……何がしたいの?」 『単純なことさ……僕がこの世界を統べるためだよ。この世界だけじゃなく、異世界も含めて全てをね』  それを聞いて、僕はくだらないと感じてしまった。  スケールは大きい。そのためにダイブネットなんて代物を用意して今回の事件を起こしたのもわかる。でも、そんなことをしたのがただ支配欲を満たすためだけ? 「ゲリウスを殺したのも……その目的のためなのか?」 『もちろんだ。僕が以外の天才はいらない、父は文字通り天才だった……だからこそ、僕に届きうる可能性があったのさ。邪魔されたら困ったもんじゃないからね』  違う。何かがあの時と違う。今は、目的のために不要だったとセスは言ったが、あの時は、ただ自分と同じ天才を存在させたくなくて殺したかのような……? 「本当に……お前の意志で殺したんだな?」 『お喋りはもういいだろう? どうせ君は終わるんだ……無意味な会話はおしまいにしよう』  直後、激しい揺れが僕のいた部屋に襲い掛かる。 『君がいる場所は、捕らえた人間の一画でしかない。少し惜しいけど……まとめてさよならだ。そこは宇宙空間内にある場所だから。君はどうあがいても生き残れない』
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