第十ニ章 さようならで終わる 俺の物語

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「ここにいると、他のカプセルで眠ってる人も狙われちゃうみたいだから……外に出てあげるよ。僕を殺したいなら……そこで何度でも挑戦すればいい」  そう言いながら僕は、出入り口らしき場所へと向かって歩く。その途中、自分から黒幕が運ぼうとしていた空間へと向かうのが予想外だったのか、『外……ここの外は宇宙空間だぞ……?』と焦燥した様子で声を掛けてきた。 「宇宙空間くらいで……僕が死ぬとでも?」  だからハッキリとそう伝えてやった。それから移動の途中で何をやっても無駄と感じたのか、もしくはさっきの攻撃で万策が尽きたのか、なにも仕掛けてこなかった。 『君は……一体何をしたんだ?』 「その前に僕の質問に答えてくれよ。世界を統べてどうするのさ」 『……この世界は腐りきっている』 「は?」  まるで定番の冒険ファンタジーの魔王が吐くようなセリフに、僕は思わず表情を歪める。 『この世界だけじゃない……僕は、己が身に着けた技術を駆使してあらゆる世界を見続けてきた。結果的にわかったのが、人間は統率者がいなければ……ゴミだということだ』 「ゴミ? 何様のつもりなのさ」 『君は見ていないからそんなことが言えるんだ。確かに、そうじゃない者も多くいる。他を重んじ、他のために、他の気持ちを汲んで、他のために尽くす……そういう人間もいる。だが、そんなのは人間の全体数に比べれば一割にも満たない』  少しだけ共感できる部分があったせいか、僕は何も答えず押し黙る。だって、そのせいで……兄さんは――、 『人間の多くにとって最も優先したい大事なことは、【今】の自分だ。だからこそ、多くの人間が後のことを考えない。他のことを考えない。己が中心に全てを考えて、ほんの少しの思いやりだけで自分は善人だとはき違えている』 「そんなの、動物だって同じだろ……いや全ての生命がそうのはずだ」 『いいや違う。人間だけその先に起こるだろう悲劇を考えずに周囲に害をまき散らし続ける。今だけを考えて蝕み続け……その結果がもたらした災害に他力本願の助けを乞う。動物は必要最低限の犠牲を払うだけ、そしてそれによって被る災害も果敢に自分自身で挑む』  僕の記憶に思い当たる光景が浮かび、その言葉に納得してしまう。さんざん僕たちを追い詰めて、その結果に被害者面をしていた連中が脳裏に浮かんだ。
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