第十ニ章 さようならで終わる 俺の物語

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『かつて……英雄ゼクセルがこの世界を救うために人々を助けようとした時でさえ、人々は今を重んじ英雄ゼクセルを邪魔者扱いした。世界よりも、アイドルのライブが大事だなんて言ってな』 「…………」 『異世界はもっと酷い、世界を救った英雄ゼクセルを魔王と称して迫害し、再び魔王イビルが復活したと英雄ゼクセルがわざわざ身の危険を顧みずに知らせにいったにも関わらず、今を重んじ、一度自分が犯した過ちから目を背けようと必死に英雄ゼクセルを魔王扱いしていた』 「異世界のことまで見てたのか? それって……父さんやおじさんにあった昔の話か?」 『そう、僕はずっと見ていた。彼らがどんな結末を歩むかね。その結果……人間がそこまで堕落してしまうのは、人間自身が不要な思想を抱いてしまうからだと気付いた。だから私が統率し、本来あるべきこの星にふさわしい存在へと戻す』  その時、僕は再び変な矛盾を感じてしまう。  ずっと見ていた。それは真実なのだろう。そして、人間の醜さに絶望し、今回の騒動を起こしたというのにも合理性がある。  でもそれは、極論を言ってしまえば、この世界を想って起こした行動だ。  これがどうしてか矛盾に感じてしまう。世界のために今回の事件を起こしたのであれば、今回の事件を起こせるくらいの力を持った人物であるのなら。  どうして、二度に渡る世界滅亡の危機を傍観していたんだ? 世界を、大事に思っているのに? 「……どっちにしろ」  それでも僕の今するべきことは変わらなかった。傲慢な人間たちの一番の被害者である兄さんが、人間を救うように……この世界を助けるように願ったから。 「人間ってのはそれぞれの価値観を持っていて、それぞれが違った良い、悪いと考えられる感性があるから発展してきたんだ。自分にはない、新たな発見をそれぞれが見つけ出すからこそ……価値があるんだ。お前の心境を当ててやるよ。お前はただ……人間が怖いんだ」 『なんだと?』 「人間が持つ、多種多様な可能性が怖いんだ。自分には想像もつかない発見をされるのが怖い……だから、統率し、全員が同じ価値観を持つようにしようとしている。自分を超える天才が生まれるのが……怖いから」 『違う……違う! 黙れ!』 「教えてやろうか? そういうの……押し付けって言うんだよ」
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