最終章 「最強人種」

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 再び長い静寂が訪れる。しかし3分後、頭の中で何を言っているのか整理が出来たのか、狼狽えた様子で念話を飛ばしてきた。 『……ありえない!』  まるで漫画のようなテンプレートなセリフに、思わず僕は笑ってしまう。 『魔力や気で時に干渉するのは不可能……それは、あの岡崎茂も……影の英雄と呼ばれた長命の研究者イビルさえもハッキリと結論付けたことだ。無論この僕も! まさか……それがスキル、最強人種の力とでもいうのか?』 「いいや? 違うよ。時を止める力は、僕の技術でスキルの力じゃない」 『技術だと?』 「お前の言う通り。時を止めるなんてことは不可能だよ。時が止まるということは、全ての存在に干渉することが出来なくなるということ。それが例え空気であっても押し出すことは不可能になり、身体を動かすことは出来なくなる」 『そうだ。仮に時を止めたとしても自分以外の時は止まっている。結果的に動くことは不可能だ』 「まあ……語弊はあるよ。時を止めたってのは、半分は嘘だから」 『半分?』 「僕に対しては……時を止めたとは言えない。でも、お前にとっては時を止めたと言える」 『どういう……意味だ』 「一秒ってさ……誰が最初に決めたんだと思う? 多くが一秒を正確に測れないのに。人によって……時間が過ぎる感覚が違うのはなんでだと思う?」  他が聞けば明らかに不可解な言葉だっただろう。しかし、黒幕は数秒の沈黙のあと、『まさか』と呟いてその言葉の真意を見抜いた。  体感速度。それは例えば、10秒間を長く感じるか、短く感じるかという、数字で表される速度ではなく、人が視覚や振動などから感じる速さや遅さの感覚。  1分を長く感じる人もいれば、短く感じる人もいる。  では、一秒を長く感じる人がいるのかと問われれば、僕は少ないと思っている。というのも、1秒間で出来る行動は限られているからだ。  仮に、一秒を長いと感じる人がいるとすれば、それは、普通の人が1分や10分かけてできるようなことを一秒で出来てしまう人だと思う。  つまり、何が言いたいかと言うと。 「お前は0.0000001秒を認識できない。だから、お前にとっては時が止まってるも同じだ」
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