第一章 愛歌<アイウタ>

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「キズナ!」 弘樹が中庭の大木の下でキズナを見つけた時、キズナはちょうど仕分け人の姿に戻るところだった。 キズナの体からツキが出てくると同時にニットワンピースが消え、黒いローブを纏うキズナが現れた。 その手に握られた大鎌の刃が、夕日の光を受けて赤く輝いている。 「君は人間になれるのか?」 弘樹が目を見開きながら尋ねた。 「違うわ。ただ、人間に姿を見せることが出来るだけ。ツキの力を借りてね」 「だいぶ体力使うけどねー」 ツキがキズナの肩からひょいっと顔を出す。さっきより少し疲れている様子だ。 「ありがとう! 綾華を助けてくれて」 弘樹はキズナとツキを嬉しそうに見つめ、頭を下げた。 「別にあなたのためじゃない。死後に彼女が後悔するのは目に見えてるから止めただけ。こっちだって、目の前で死なれたら気分悪いしね」 キズナは素っ気なく言い、そっぽを向いてしまった。 「……素直じゃないんだから」 ツキが悪戯っぽく笑いながら呟いた瞬間、キズナが鋭い目で睨みつけた。殺気を感じたツキは、慌てて弘樹の陰に隠れる。 一方、弘樹はキズナが言ったある言葉に引っかかっていた。 「後悔するって、どういうことだ?」 「自殺しても、何も良いことないってこと。簡単に天に向かえるほど甘くないの」 そう言いながら、キズナが左手首をさすったのを弘樹は確かに見た。その直後……弘樹の頭の中に、ある仮説が出来上がる。 「まさか、君も……?」 弘樹が尋ねた時、ツキが横から得意げな声を発した。 「あんね、"仕分け人" は特殊な死に方をした人間がなるものなんだよー」 「特殊な死に方?」 弘樹が不思議そうな目をして尋ねたが、キズナは首を横に振り、静かに口を開いた。 「私も詳しくは知らない。私達 "仕分け人" には、死の瞬間の記憶しか残されていないから」 「私達って……仕分け人は君以外にもいるのか?」 「当たり前でしょ。私1人で全国の霊を未練切りできると思ってるの?」 キズナは呆れ返るような目でそういった後、さらに言葉を紡ぐ。 「私が知ってるのは、『私の最期』だけ。他の仕分け人達がどうやって死んだかなんて分からないわ」 その直後、キズナの目に悲しげな光が宿った。 「私は、失った全ての記憶を取り戻すまで "仕分け人" から解放されないの。その時まで……ただ霊の未練を解き、悪霊を始末するだけの存在であり続ける」
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